素直になれたらよかった【降谷零】

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別居するようになってからも、記念日には必ず会うようにしていた。ここ最近では、零も持ち前の饒舌さを取り戻して明るくなった気がした。相変わらず仕事については話してくれなかったけれど、どうやら上手くいっているらしい。美味しかったご飯のこと、楽しかった旅行のこと、風景が綺麗だったところ、面白かった本のこと。いろんなことを話してくれた。零が本当に楽しそうで嬉しかった。

だけど、前回は違った。





「もう、あの日から10年だね。」

「ああ。」

「約束、覚えてる？」

「勿論。」

私は少し浮き足立っていた。けれど、零は違った。その日顔を合わせた時から、無理なんだと察していた。

「……やっぱり無理なの？」

「言い訳がましいけれど、プロポーズするつもりだったんだ。でも、今はできない」

「どうして……？」

「来月20日に、米国に赴くことになった。いつ帰ってこられるかわからない」

だったら私も連れていってよ、とは言えなかった。わがままを言って困らせたくなかった。

「それなら、しょうがないね」

いつより幸せな日になると思って期待していた私が馬鹿みたいだ。いっそ、仕事のことばかりの零を手放してしまおうかと思ったけれど、零が他の誰かのものになることにはもっと耐えられなかった。





その日は次に会う約束をせずに別れた。

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