引きこもりの審神者の話 (ページ1)

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その少年が政府から派遣された職人に、

『審神者にならないか？(強制)』

とお誘い(強制)を受けたとき、確かに彼は絶望した。

引き込もれない、と。

人間関係に飽き飽きし、高校を中退してこの四畳一間の狭い部屋に引きこもってるからかれこれ数年。一応和式だがトイレはあるので、外に出るのは数日に一回のスーパー銭湯のときだけ。食料は配達、仕事は家で出来るし、立地が悪く周りに大したものがないため家賃は格安。

何これ最高。ハッピーライフじゃねーか。

細々としていて、特に生き甲斐はないけれど、人間関係がほぼないという俺特攻のセールスポイントが売りのこの安定した生活を捨てる……？？？

『(無理だな、うん)無理です。』

『心からの言葉とお見受けしますが、申し訳ないことに政府としては決定事項でして……、』

はい出た、決定事項。取り敢えず決定事項って言っておけばどんな理不尽も押し通せちゃうんだろ。

酷く申し訳なさそうに職員は頭を浅く何度も下げる。もうなんというか頭を下げる作業になれてしまったような感じさえする。決定事項という言葉に絶望しながらも少年は考えた。快適で静かで周りに人がいない環境を手に入れるために。

｢あ、あの審神者という職業は住み込みですがとても稼ぎが良くてですね、現世……えーと、故郷？？の方に戻る頻度は確かに少ないですがちゃんとあちらの方でも人との交流は出来ますし充実した日々を送れると思いますよ、はい！｣

その間にも、なんとか乗り気になってもらおうとする職員が｢審神者｣という謎の職業について話し始めたが、そのどれもが少年にとっては魅力的ではない。

金には困っていないし、充実した日々なんて求めちゃいない。ましてや人との交流だなんて！

最初からマイナス地点にあった少年の意欲がどんどん下がっていき、地にまで潜ってしまった。もう彼が纏う空気が寒すぎて辛い。春よ来い、と兎に角魅力的な点を紹介するしかない職員は思った。

意欲があろうとなかろうと、強制的に連れていかれるのは変わらないのに、空回りだが親身になって話をしようとするこの鬼になりきれない男に、少年は仕方なく諦めた。というか、元々逆らうのも面倒くさかったため、政府から強制です伝々を言われた時既にもう半ば諦めてはいた。

面倒事、ダメ、絶対。心の安定を図らねばと強く思った。