その２ ページ2
レストランに入ると、思ったより高級感があってびっくりした。
｢ジャージ着てきた紗綾をこんなとこに連れてくるのもおもろいやろな...｣
横で彼がそう呟くのを聞いて、私は今後もオシャレしてくることを固く決意した。
席に座ると、やっとゆっくり彼のことを見ることが出来た。
いつもはチェック柄が多いのに、今日は黒のジャケットにジーパンだ。
いつもの黒縁眼鏡。茶髪のくせに、似合ってる。かっこいいとか思っちゃう。
頼んだワインがきて、グラスに注がれて。
｢こんな時、なんて言えばええんかな｣
｢君の瞳に乾杯、とか？｣
｢ださっ、もうええわ、はい乾杯。｣
｢...｣
ロマンも何も無いけどとりあえず乾杯した。
運ばれてくる料理がどれも本当に美味しくて。
久々にゆっくり話す時間は本当に楽しくて。
気がつけば、料理も食べ終わって、時計は８時半をさしていた。
｢美味しかったー｣
｢当たりやったなーまた来よ、このお店｣
｢うん！｣
いつも通り、お会計は彼が。
｢いつもありがとうね｣
｢お前のために稼いでんねんからなんも言うな｣
店を出て、駅までの帰り道。行きとは違って、彼もゆっくり歩いてくれる。
｢すごい申し訳なくなる、その言葉｣
｢お前はおってくれるだけでええから。それだけで支えやし、励みやし...まぁ、癒しやし。｣
｢...いつも扱い酷いのに？｣
｢好きな子ほどいじめたくなるとかよう言うやろ｣
それ小学生くらいまで、と言うのはぐっと堪えた。
｢今日もありがとう｣
｢あぁ、また寂しくなったらいつでも電話せぇよ｣
｢寂しいのは尚生さんでしょ｣
｢ちゃうわ｣
近づいてくる駅。
これでまた、しばらく会えなくなっちゃう。
嫌だなぁ。
駅はどんどん近くなって、駅前の広場で、私と彼はお別れする。
｢次会えるのいつやろなぁ｣
｢そうだね...｣
プロ野球選手と、会社員。
お互い忙しくて、予定がなかなか合わなくて。
こうやって会える日が、すごく貴重で、うれしくて、楽しくて。
別れ際ほど、悲しいものなんてない。
｢次は紗綾のジャージ楽しみにしとるで｣
｢絶対に着ないから｣
なんて言って笑いあって。
次顔を見て話をするのは、いつになるのかな。
｢...じゃあ、私はこれで｣
｢おぅ、また連絡する｣
｢うん、じゃあね。｣
未練を残さず、あっさりと背を向ける。
改札を通ろうとして、定期を探そうとカバンを探る。
｢...あれっ｣
定期がない。
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作者名：やねのうえ | 作成日時：2017年5月23日 19時
