our story (ページ28)

今日:10 hit、昨日:0 hit、合計:19,719 hit

★ ページ28

慎の言った意味がわからず流れていた涙が止まった。

「え？」

慎「俺がAさんに交際を申し込んだら？」

「いや冗談にもほどがあるよ？」

そう言って笑い飛ばそうとして慎の目を見るとその目はいつになく真剣さをたたえてこちらを見ていた。

慎「冗談なんかじゃないです。俺、ずっとAさんが好きでした。」

慎の口から出てきた思ってもいなかった言葉に動揺した。

「え、でも芽衣と付き合ってるよね？」

慎は、はあとため息をつくと口を開いた。

慎「もう別れました。」

「え？」

慎「俺はずっとAさんが好きだったんです。壱馬さんより前から。でも壱馬さんの気持ちを聞いて身を引いたんです。壱馬さんがAさんをどれだけ想っているか知っていたので。」

慎の話についていけずなかなか理解できなかったが慎によると、どうやら芽衣と付き合ったのは慎をずっと好きだった芽衣の申し出で、私を忘れるためだったらしい。

そして次に私と再会した時までに慎が芽衣を本当に好きになれば交際は続行、まだ私を好きであれば2人は別れるということだったそうだ。

そして慎は私を忘れられず芽衣と慎は別れた、とそういうことらしい。

慎「俺、芽衣と別れたけどAさんにアタックしようなんてこれまで思ってませんでした。あなたが俺のことを弟みたいにしか思ってないの知ってたんで。」

慎はポトフを飲みながら淡々と続ける。

慎「でも今日、Aさんが壱馬さんのことで苦しんでるのを見て気が変わったんです。」

スプーンを置いて私を見つめた慎に若干尻込みする。

慎「Aさん、俺を利用してください。俺が芽衣を利用したみたいに壱馬さんを忘れるのに俺を使ってください。」

慎の言葉に弾かれたように顔を上げるとそこにはいつになく優しい目で私を見つめる慎の顔があった。

慎「Aさんが俺を好きになるなんてことがないこと、十分わかってます。でも俺は自分が好きな人が辛くて泣いているのを見るのは嫌なんです。壱馬さんへの気持ちがなくなるまでの間で良い。どうか俺を利用してください。」

慎の優しさに涙が溢れた。

「そんなことできないよ。そんな慎に気持ちを踏みにじるような。」

慎「それでAさんが楽になるなら俺のことなんて全然構いませんよ。」

そう言って慎は困ったように笑うと、だから泣かないでください、と言った。