あの頃とは違う ページ9
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「 ……なにか、ご用ですか 」
「 ご用ですかって、そんな他人行儀なこと言うなよ 」
俺ら元恋人じゃん?そう言って小指を立てる目の前の男が憎たらしい。
もしも恋人と認められる定義が、相手が告白をしてきてそれを受けた時点だと言うのならば、確かに私と彼は元恋人だ。
学生時代、私は彼に告白されて馬鹿みたいに浮かれながらその申し出を受けた。
だけど後になってみれば、全部可笑しかった。
ずっと教室の隅で陰気臭く読書をしていた私が、教室の空気を全て支配しているような彼に告白されるなんて、普通あり得ないことだ。一体どこの少女漫画だ。
そんなことにすら気づけなかった当時の私は、よっぽど頭がお花畑だったのだろう。
―――『 全部冗談に決まってんだろ。真に受けんじゃねーよ、ブスのくせに 』
私の幸せな妄想生活は、慈悲のじの字もない彼のその言葉によって、終わりを告げた。
彼に「 罰ゲームだった 」という現実を突きつけられてからは、私はより一層可哀想な奴として教室で扱われることとなった。
レッテルは身の程を弁えていない可哀想な陰キャ。
自慢だった黒髪だって、散々「 地味だ 」と馬鹿にされた。
酷いときにはいじめ紛いのことをされたこともある。
だから私は変わったんだ。
もう二度と、こんな奴に人生を狂わされないように。
「 ……貴方の方こそ、無駄に親しく接してくるのやめていただけませんか。元だかなんだか知りませんけど、私は貴方になんの未練もありませんので 」
あるのは、あの頃の自分に対する惨めさだけだ。
「 冗談に決まってるだろ 」と嘲られた時から、こいつの自分に自信満々な所が心底嫌いだ。
伊沢さんの自信とは違う。彼の自信は、今まで必死にやってきた努力に対する自信だ。
こんな、周りを見下して嘲笑っている奴の汚い自尊心とは、全く違う。
「 ははっ、嘘つけよ。あの時お前、俺の前で嘘って言って!って泣いてたくせに 」
「 はぁ。それがどうしたんですか 」
「 ……は? 」
「 過去は過去でしょう。貴方はまだそんなことを思い出して優越感に浸っているんですか?可哀想な人ですね 」
彼は過去の話を持ち出せば私が動揺するとでも思っていたのだろう。
だが実際に会えばその予想は外れ、おまけに昔馬鹿にしていた奴に馬鹿にされた。
可哀想な人だ、本当に。
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作者名:朝田 | 作成日時:2021年1月6日 19時