チューハイを煽る ページ6
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「 ……ねぇ、河村 」
「 なに 」
「 辛くないの。そのポジション 」
お互いに少しだけアルコールが回り始めた頃、俺はそうやって河村に切り出した。
元よりこの話をするために彼を引き留めたのだ。本題に入らず「 じゃあ今日はこれで解散 」とするほど、俺は馬鹿じゃない。
それにきっと、河村だって、薄々勘づいていたと思う。
「 辛くないね。……なんて言えたら、俺も一人前だったのかな 」
山を作っている膝に頬杖をついて、数分前の俺のように空を眺める河村。
思えば、彼がこんなにも誰かを想い、傷ついている姿を見るのは出会ってから初めてだ。前までは恋と自分は無縁だと割りきっていた筈なのに。
ここ半年のことで忘れていたが、伊沢だってそうだ。
彼も前までは「 今は仕事を優先したいので恋はしない 」と言っていたのに、今じゃAちゃんAちゃんマシーンと化している。
そんな恋に興味すら無かった二人を、このたった半年で落としてしまうなんて、一体しずくちゃんは何者なのだろう。
「 河村さ、伊沢になにしたの 」
「 ちょっとした意地悪だよ。見る? 」
「 見る 」
河村が取り出したスマホ画面を覗き込むように体を寄せ、手元に視線を落とす。
彼は慣れた手つきでLINEのアイコンをタップすると、迷わず伊沢とのトークを開き、俺に見せてきた。
彼らの会話は、伊沢のメッセージで終わっている。「 俺、もう遅かったんですね 」
その前のメッセージには、「 初めてだったみたいだよ、彼女 」と書かれた吹き出し。
あーなるほど、わざと誤解を招くような文章送ったのか。
「 因みに河村はどういう意図で送ったの 」
「 男の家に泊まりに来るの初めてだったみたいだよ、彼女 」
「 それは分かんないわ 」
「 効果覿面だろ?こんなので諦める奴なら、そこまでの男ってことだよ、あいつは 」
酎ハイを煽り、空き缶を地べたに置く音が微かに響く。
だが上手く立てることが出来なかったのか、置かれた筈の空き缶は、すぐに音を立てて転がった。
……こんな言い方してるけど、転がった要因くらい、分かってるよ。
だってお前の指先、こっちが心配になるくらい、震えてんだもん。
「 泣くなよ 」
「 泣いてない 」
意地っ張りな河村の隣で、俺も酎ハイを煽る。
あー目尻が熱い。酒飲みすぎたかな。
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作者名:朝田 | 作成日時:2021年1月6日 19時