ペルソナで隠しても ページ5
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「 河村、ちょっと付き合って 」
「 はぁ?なんで 」
「 良いから。先ベランダ行ってるよ 」
仕事終わり。
社員は全員帰宅し、夜も更けてきた頃。プロデューサー同士での話し合いの為に残っていた俺は同じく残っていた河村にそう言い、さっき買ってきたコンビニの袋を下げてベランダに向かった。
どいつもこいつも分かりやすい。
伊沢は言わずもがな、ペテン師なんて言われてたくせに、しずくちゃんの事となると全部表情に出るから一目で分かる。
しずくちゃんも、動揺すると動きが止まる癖があるから、よく観察したら簡単に見抜ける。
一見、いつもと変化が無さそうな河村だって。
所詮は彼も人の子というわけだ。
「 手短にしろよ。こっちはさっさと帰りたいんだから 」
ベランダに腰を下ろして先に缶酎ハイを飲んでいると、河村も顔を覗かせに来た。
そのまま帰ってしまえば良いのに、彼は変なとこで優しい。俺が先に行って待ってると言うと、待たせないように、こうしてすぐ来てくれるのだから。
俺の様子から話が長くなることを悟ったのか、彼はため息を吐きつつ、隣に腰を下ろす。
たまには良いだろ、こういうのも。
「 ……懐かしいな。まだここが小さかったときは、たまにこうやって話してたんだっけ 」
「 そうそう。初めてのオフィスに酔いながら泣いてる伊沢とか、鬱陶しそうな川上とか、そういう面子呼んで、ここで飲んでた。まぁ、もうあの頃のオフィスとは違うけど 」
「 変わっていくのって、あっという間だな 」
隣から届くタブの音を聞きながら、藍色に包まれた夜空を見上げる。
夜空を見ながら飲むお酒は美味しい。居酒屋とかファミレスとか、そういう店でワイワイ飲むのも勿論美味しいが、たまにこうして夜風に当たりながらお酒を嗜みたくなる時がある。
嗜むなんて、そんなかっこいいもんじゃないけど。
「 でもさ、本質はなにも変わってないと思うよ。伊沢も、俺達も 」
「 俺にもそれ言えんの? 」
「 河村は特に変わってないよ。対人関係になると途端に不器用になって、妙な所で一歩引くところとか、会ったときから全然変わってない 」
「 お前にそれ言われるのはムカつくな。その酒寄越せ 」
「 やだよ。そっちまだあんじゃん 」
「 泥酔してお前を困らせてやる 」
「 マジでやめて 」
それに、意外と健気なとこも。
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作者名:朝田 | 作成日時:2021年1月6日 19時