ラストキスを贈る ページ40
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「 え、ほんと?!今のほんと?!?待って!!!ちょっともう一回言って?!?録音!録音しなきゃ!! 」
「 なんでこんな時までキモいんですか…… 」
涙で濡れた顔を見られたくない私は、彼の頼もしい肩に額を押し付ける。
すっかりいつもの調子の彼だ。深刻そうな雰囲気を出して今にも泣きそうだった彼はどこへ行ったのだろう。
だがそんな時間も直ぐに過ぎ去ってしまう。彼は名残惜しそうに私の体を離すと、そっと顔を覗き込んできた。
マスクを着けていたって分かる。今の伊沢さん、気持ち悪いくらい笑顔なんでしょ。
「 好きだよ、Aちゃん 」
「 わ、分かってますって 」
「 いずれ愛してるも送るからね!楽しみにしててね! 」
「 気が早い…… 」
コツン、と彼の額と私の額が合わさる。
頬に添えられた彼の指先は固い筈なのに毛布のような包容力があって、くすぐったくて。
彼は徐にマスクを下ろすと、人目も憚らず、私の唇を颯爽と奪っていた。
「 俺はずっと待ってる。Aちゃんが帰ってくるまで、ずっと 」
「 ……ファーストキスを易々と奪われた人に言われても 」
「 ……あれ、もしかしてちょっと嫉妬してる? 」
「 してません 」
「 してるでしょ 」
「 してない! 」
別に白石さんにファーストキス奪われたこととか、気にしてないし。
私はファーストキスだったのに伊沢さんだけセカンドキスなんて、とか思ってないし。
……私がファーストキスが良かったな、とか……思わなくも、ない。
「 ファーストキスはどうしようも無いんだけど……でも、誓うよ 」
「 何をですか 」
「 ―――俺のラストキスは、永遠にAちゃんだって 」
「 っ…… 」
なんでこの人は、いつもいつも、こんな歯の浮きそうな台詞をサラッと言えてしまうんだ。
それに笑顔もウザい。ドヤ顔で全部台無し。
……でも、貴方がそう言うと、不思議と安心できてしまう。
そういうところも、全部ウザくて。―――多分、全部好きなんだなって。
照れた顔を見られないよう、私はトランクの元まで走り、背後の彼に照れ隠しとして叫んだ。
「 っ向こうで拓司さんより良い相手見つけてやる!! 」
「 えっ?!両想いなのに可笑しいでしょ!!!それなら俺も行く!!!経歴偽って留学する!!!!!!てか今拓司って呼んだよね?!?ねぇなんで無視?!?泣くよ?!?!?俺泣くよ?!?!?ねぇ!!!! 」
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作者名:朝田 | 作成日時:2021年1月6日 19時