必殺技は三文字 ページ38
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―――頭を真っ白にする時間すらも、教えてくれた彼に真偽を確かめる時間も、どういうことだと詰め寄る時間も惜しい。
今の俺は一分一秒無駄にしたくなかった。
福良さんからAちゃんの向かう空港、出航時間を聞き出して、入ってきたばかりの玄関を飛び出す。
恐らくこの時間の空港までの道は混む。車を使うよりも自転車の方が速い。
荷物をかごに投げ入れ、鍵を外し、サドルに股がる。こんなところで筋トレが役に立つなんてな。
疑問に思うことは、山ほどある。
何故福良さんには言って俺には言ってくれなかったの、とか。
どうして留学のこと隠してたの、とか。
曖昧なまま消えるとかズルくない？、とか。
「 頼む、間に合ってくれ……ッ 」
でも今は、そんなことは後だ。間に合わなきゃ疑問をぶつけることも出来ない。説教することも出来ない。答えをもらうことも出来ない。
ねぇ、Aちゃん。俺は諦めが悪いんだよ。だから、迷惑なら迷惑だって、俺の手を払い除けて。
じゃなきゃ俺は、いつまでも君の影を追いかけ続けてしまう―――。
自転車を邪魔にならない場所に乗り捨てて、人が行き交う空港内に駆け込む。
出航まであと二十分。残された猶予はあと十分程度。
たった十分。されど十分。
この十分は、今の俺にとっては何にも変えがたい時間だった。
ズルい。ずりぃよ、やっぱ。
君を想ったままの俺を置いてくなんて、置いてくなんて、そんなの……―――。
．
「 ―――伊沢、さん……？ 」
―――刹那。
行き交う声に紛れて届く、高すぎず低すぎない、耳に心地よいアルトが俺の鼓膜を揺らした。
今日まで何度も何度も聞いた声。電話越しに聞いても、直に聞いても、いつ聞いても俺を笑顔にしてくれる、そんな声。
君は自分に取り柄が無いって言うけど、それは違う。
俺は何度だって君という存在に励まされた。君の笑顔を見て何度も惚れた。君の言葉に馬鹿みたいに嬉しくなった。
きっと、いつまでも待てる男がかっこいいんだと思う。
でもこの期に及んでまで俺は、かっこ良くなんていられない。
「 ―――好きだ 」
今まで数えきれないほど伝えてきた告白。
想いの密度はいつだって同じだった。いつだって真面目に告白して、真に受けてくれない君にあしらわれてた。
なのに、今日の告白がいつもと違うのは―――きっと、これが俺にとって、最後になるから。
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作者名：朝田 | 作成日時：2021年1月6日 19時
