クレーンゲームに挑む ページ25
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社長が車を停めたのは、夜が近くなってきた時間帯でも人の出入りが絶えない大型ショッピングモールだった。
降りよ、という彼にならって、助手席の扉を開ける。
見上げれば、天高く聳え立つ建物。店から出てくるのは、お洒落な格好に身を包む人々。
マスクと眼鏡で顔を隠しているとはいえ、彼がわざわざ好んでくるような場所には思えない。
かく言う私も、自分一人では絶対こんな人のひしめき合う場所には出向かない。初詣もそういう理由でいつしかサボりがちになった。
「 ……あの、社長 」
「 ん? 」
「 どこに向かうつもりですか。なんだか騒がしい音が聞こえてくるんですけど 」
「 久々にゲームでもしよっかなぁって。一回Aちゃんとゲーセン行ってみたかったんだよね 」
「 わぁ、清々しい 」
拒否権を唱える間もなく社長に手を引かれて、学生から二十代くらいの男女までが歩き回るゲームセンターに連れてこられる。
雰囲気的には若者達のデートスポット。明らかに成人済みの社長とアルバイトがプライベート( 一応企画立案の旅という名目だが )で来るような場所ではない。
帰りましょうよ、と居心地に悪さに引かれている腕を手前に引くが、彼はそれを別の受け取り方をしたらしく、「 あ、もしかしてクレーンゲームよりコインゲームの方が良い? 」と言って首を傾げた。
クレーンゲームでもコインゲームでも良いんですよ。私どっちも下手なんで。
じゃなくて社長にはこの明らかに「 あたいら青春してます!! 」って雰囲気が感じ取れないんですか?!私は体全体にびしばし感じますけどね!!
「 Aちゃん見て!これ! 」
「 ……カラスのぬいぐるみですね 」
「 Aちゃんに似合うくない? 」
「 それは私が根暗で打算的な人間だと仰りたいんでしょうか 」
「 なんでそんなひねくれんの!可愛いって意味じゃん! 」
「 どーだか 」
鈍感な社長にわざと嫌味ったらしく返してみれば、彼は何を思ったのか、「 絶対取ってAちゃんに似合うこと証明してやるからな! 」とメラメラ闘志を燃やし、大きなぬいぐるみに向き合った。
この人の闘志が一体どういうタイミングで火が付くのか全く予想できない。
それにいくら社長が勝負に強い人だと言っても、この大きなぬいぐるみを取るのは難しいだろう。こういうクレーンゲームは大体、アームが弱く作られてるのだから。
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作者名:朝田 | 作成日時:2021年1月6日 19時