デートではない ページ24
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「 このままデートいこう 」
「 降ります 」
「 待って待って待って！ドア開けようとしないで！！ 」
社長が突拍子も無いことを言い出すのはいつものこと。
そして幾度となくそういう場面に立ち会ってきた私は学んだ。
こういう時はさっさと退散した方が身のためだと。
だが男と女では力の差が歴然すぎる。しかも相手は毎日筋トレしているような筋肉バカだ。
いや、実際の頭はめっちゃ良いんだけど。その細かいとこはどうでも良くて。
つまり、彼に腕を掴まれてしまえば、運動とはすっかり疎遠になった私は少しも抵抗出来やしないのだ。
「 ……この後の仕事はどうするんですか 」
「 その辺は大丈夫。あとはオフィス行くだけだから 」
「 じゃあ早く行かないと福良さんに怒られますよ 」
「 Aちゃんと企画立案の旅に行ってくるって言ったら許してもらえた 」
「 福良さぁぁん 」
彼が自信満々に見せつけてくるスマホには確かに、福良さんからの返信で、『 二時間だけだよ 』と送られてきていた。
皆結局、私も含め、思い立ったらすぐ行動するこのフッ軽男に甘いのだ。
彼が普段誰よりも頑張っている姿を近くで見ているから、余計に。
ね？ね？とお菓子をねだる子供のように私を引き留める伊沢さん。
あぁ、殴りたい。自分の強みを分かってやっている彼も、それにまんまと嵌まる愚かな自分も。
「 ……デートじゃないですから。あくまで企画立案の旅ですから 」
「 つまりデートってことッ？！ 」
「 いい加減殴りますよ、社長 」
助手席に座り直し、一度外したシートベルトをもう一度つけ直す。
その様子を満足そうな表情で見守った伊沢さんもまた、私を引き留めるために緩んだシートベルトを直した。
車が発進すると共に、後ろへ流れていく雨模様。
この席から重たい曇天とそこから降り注ぐ滴を眺めたのは、もう両手では数えきれない。
思えば、彼に出会ってからの半年間。自分から雨のカーテンに突っ込みさえしなければ、濡れることは殆どなくなった。
それくらいいつだって来てくれるんだ。大事な自分の時間を削ってまで。
「 …… 」
誰だって良いと思っていた。向こうが好いてくれているなら、私の意思なんてどうでも良いなって。それくらい恋愛に興味がなかった。
でも今は、自分でもよく分からない。
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作者名：朝田 | 作成日時：2021年1月6日 19時
