間に合わない予定日 ページ21
□
不本意ではあるが、上司二人に説得されれば、流石に折れざるを得ない。
根負けという形で私が一つ了承の意を込めて頷くと、福良さんの方は「 良かったぁ 」と、河村さんの方は無言で頷いていた。
私なんかが加勢したところで、大した力になるとは思えないのだが。
「 因みにイベントの開催予定日はこの日なんだけど、大丈夫？ 」
「 ……あー 」
福良さんが見せてくれた日程に目を通して、思わず声を漏らす。
ギリギリだ。ギリギリ、間に合わない。
この感じだと、当日には参加できないが、それまでの企画の準備や会議には携われそうだ。
開催予定日は、私が留学生として海外に向かう日より一週間あとだった。
私個人の旅行ならどうにかなったかもしれないが、あくまでもこれは留学。予定のこともあるし、延長して貰うことは難しいだろう。
QuizKnockへ伝えるのは、まだまだ先で良いと思っていた。
だけどこうなれば、福良さんだけには、伝えておかないといけないかもしれない。
「 ……福良さん、ちょっと、別室で話してもいいですか 」
「 分かった。じゃあ河村、少し席外すね 」
「 了解 」
パソコンに向き直った河村さんの背中を一瞥して、椅子から立ち上がった福良さんの背中を追いかける。
移動してきた部屋は会議室。今日は特に会議の予定は組み込まれていないので、随分と閑散としている。
「 話ってさ、伊沢に聞かれたくない話？ 」
「 ……伊沢さん、というより、ほんとは、もう少し経ってから言おうと思ってまして…… 」
「 うん 」
「 ……実は私、長期留学に、行く予定なんです 」
彼は今でこそ敏腕プロデューサーだが、元は同じ大学生だった。
きっと、大学生活の不安定性を理解してくれているのだろう。あまり、驚いた様子は感じられなかった。
長期留学の予定に加えて、イベントの開催日が出国日よりも後であること、当日参加は難しいことを彼に伝える。
その先は言わなかった。「 それでも良いですか 」という言葉は。
それでも福良さんは、ふっと柔らかく息を漏らすと、ポンポンと二回私の頭を撫でる。
「 一緒に成功を見届けれないのは寂しいけど、それでも俺は、しずくちゃんに手伝ってほしいな 」
「 っ……出発ギリギリまで、一生懸命頑張ります！ 」
「 うん。期待してる 」
やっぱりこの人が味方で良かった。そう思わされた日だった。
□
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 481人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：朝田 | 作成日時：2021年1月6日 19時
