嘘のような本当 ページ17
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「 ……実は、大学の方で今、長期留学の話が出てまして。その準備というか 」
「 なるほどねぇ 」
この話は嘘ではない。実際に、私は長期留学を前向きに検討していた。
だがそれはまだ半年も先のことで、辞める意思を伝えるのは二ヶ月前くらいで良いかと考えていたのだが……まぁ、どちらにせよ何れ伝えることだった。
今回のは、それが少し早まっただけのこと。
……QuizKnockの方は、もう少し後でも良いかな。
「 でもそっかぁ。しずくちゃん居てくれて結構助かってたんだけどなぁ 」
「 いえ、私なんて全然。失敗ばかりでしたよ 」
「 もう、過小評価しちゃって 」
でも、頑張りなよ。そう店長に励まされ、精一杯の自然な笑顔で頷く。
なんの取り柄もなかった私が誰かに期待されているのだ。出来ないなりに、頑張るしかない。
店長とはそれから世間話に話を咲かせて、店の戸締まりを確認してから帰るというので、私の方が先に店を出る。
いつ話しても気さくな人だ。あの人のお陰で私はこの店で溶け込めたと言っても過言ではない。
留学から帰ってきたら絶対、海外土産でも持ってこよう。
「 先輩っ 」
「 あれ、白石さん。まだ残ってたの 」
店から出て数歩進んだとき、突然背後から呼び止められた。
振り返るとそこには、いつも見かける制服姿ではなく、私服に身を包んだ白石さんの姿。
珍しい。彼女ならバイトが終わったらすぐ帰るのに。
「 あの、バイト、辞めるんですか 」
「 あー……うん。まぁね 」
「 それは、あれですか。制服をゴミ箱に捨てられてたからですか。そんなことでバイトまで辞めるんですか 」
「 まぁ、それもあるけど…………ん? 」
あまりに自然と言葉にされたのでスルーしてしまったが、何故白石さんは私の制服がゴミ箱に入れられていたことを知っているのだろう。
もしかして入れている犯人を目撃していたのか?そしてそれを私に伝えようと、残っていた?
そう私は推理していたのだが、どうやらその推理は一ミリたりともかすっていなかった。
「 私ですよ、貴方の制服捨てたの 」
あ、まさかのそういう展開ですか。
妙に落ち着いている脳内。普段から『 伊沢拓司 』という神出鬼没な男を相手にしているせいか、急な場面展開にも頭が追い付くようになってしまっていた。
まさか伊沢さんはこの時の為に……?なわけ。
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作者名:朝田 | 作成日時:2021年1月6日 19時