軽口が叩ける幸せ ページ14
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「 外国式の挨拶ってことは、伊沢さん、誰とでもキスするんですか？唇に？ 」
「 っ……俺で遊んでるでしょ、Aちゃん 」
「 伊沢さんが下手な誤魔化しするからです 」
たった一週間。たった一週間だ、彼と距離を置いていた期間なんて。
なのにどうしてだろう。こんなにも当たり前だった時間が、今は酷く心地よい。
不服そうに唇を尖らせた伊沢さんの隣で、クスクスと笑みを溢す。
河村さんの気持ちが今なら分かる。この人、とても弄り甲斐がある。
……多分、心のどこかでは分かっていた。伊沢さんと白石さんが付き合っていないと。分かっていて無理矢理言い訳に使っていたんだ、私は。
あの二人の邪魔をしちゃいけない。そう、彼を避ける言い訳として。
「 ……ねぇ、今からさ、変なこと言って良い？ 」
「 いつも開口一番結婚しよの人がなに言ってるんですか 」
「 ははっ、確かに、それもそうだわ 」
意味もなく、道の端で立ち尽くす時間が続く。
けれど先程のような気まずい空気は、もう流れてはいなかった。
「 俺、今が一番、Aちゃんを近くに感じてるよ 」
「 ……近く、というと？ 」
「 今のAちゃん、ずっと俺のこと�� 伊沢さん �瓩辰童討鵑任�れてる 」
彼に言われて、改めて自分の発言を思い出す。
確かに、さっきまで怒濤の展開過ぎて社長呼びにするのを忘れていた。ずっと一貫して社長とアルバイトの立場を貫こうとしていたのに。
しまったと思ったところでもう後の祭りだということは、流石の私でも分かる。諦めて「 そんな大したことじゃないでしょう 」と溢すと、すぐに彼の否定が入った。
「 俺にとっては大したことだよ。だって結婚できる可能性上がったし 」
「 伊沢さんは常に結婚のことしか頭に無いんですか？ 」
「 正確にはAちゃんとの結婚のことしか頭に無いかな 」
「 うえ、絶妙に気持ち悪い 」
「 こんな俺は嫌い？ 」
そう言って顔を覗き込んでくる彼は、切なげな瞳の下で、今なにを考えているのだろう。もしこれをナチュラルにしているのだとしたら、余程のタラシだ。
そんな風に聞かれて、「 嫌いです 」とキッパリ言い切れる人間はそう多くないと分かっているくせに。
「 ……嫌いでは、無いです 」
「 ははっ、良かった 」
あぁダメだ。調子が狂う。
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作者名：朝田 | 作成日時：2021年1月6日 19時
