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気まずい空気 ページ13









「 …… 」
「 …… 」







 河村さんが居なくなってから、かなり気まずい空気が私たちの間には流れている。
 そもそも、私は確か、一週間近く伊沢社長を避け続けていた筈だ。
 それなのに急に二人きりの状況に置き去りにされるなんて、気まずいにも程がある。

 早くこの時間が過ぎ去ってほしい。
 そう願いながら心の中で手を組んでいると、行き交う人々を眺めていた伊沢社長が、徐に声を漏らした。








「 聞いて、良い? 」
「 ……ど、どうぞ 」








 これが雨宿り中だったりしたのなら、それこそ良い感じにしっとりした雰囲気になったのだと思う。
 だが今は残念なことに、空は雨のあの字も知らなそうな快晴だ。
 ただただ無駄に透き通って聞こえる声が、都会の喧騒に紛れて耳に届いてくる。







「 俺のこと、避けてた? 」
「 …… 」








 開口一番、いやこの場合は二番か。なのにドストレートに聞いてくる伊沢さん。

 この人が今まで女性にモテてこなかった理由が、今なら分かる気がする。
 多分、こういう、投げてくる球が全部ストレートな所だ。
 本当はスルーしたいところだけど、バッターボックスに立ってしまっている私は、ストライクに入れさせないためにも、馬鹿みたいに下手くそなスイングをしなければならない。








「 気のせいでは、ないでしょうか 」
「 誤魔化すの下手すぎでしょ 」








 勿論、そんなスイングで打てるわけがないのだが。

 もういっそ、相手がストレート豪速球魔神なら、目には目を歯には歯を精神で私もストレートに言った方が良いのかもしれない。
 私自体、小手先で戦うのは苦手な人間だ。
 無駄に策を練って誤魔化したところで、失敗するのがオチだろう。








「 ……だって、社長、白石さんと付き合ってるじゃないですか。なのに一緒に居たら、あらぬ誤解されそうだし 」
「 ちょっと待って、俺白石さんと付き合ったこと無いんだけど? 」
「 え?いやでも、この前キスして…… 」
「 ……あ、もしかしてそれっ?!いや、あれは違うから!あれは、その……そう、外国式の挨拶だから!挨拶!奇遇ですね、的なね?! 」
「 社長も誤魔化すの十分下手ですよ? 」








 あぁきっとこの人は、白石さんのことも悪く言わないようにしているんだ。
 あんなの誰がどう見たって無理矢理だったのに。ほんと、優しい人。









軽口が叩ける幸せ→←第三者はお見通し



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作者名:朝田 | 作成日時:2021年1月6日 19時

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