社長が笑顔な理由 ページ8
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うちの社長は今、半年程前に入ってきたアルバイトの子にかなりお熱らしい。
俺は新入社員だとかアルバイトだとかの人達とあまり関わりが無いので知らないが、時々編集の手伝いにオフィスにも来ているようだ。
多分なにかしらで顔を合わせているはずだが、思い出せないからあまり印象が強い子ではないのだろう。
となると尚更珍しい。
伊沢はああ見えて、結構「 この女、おもしれぇ 」タイプの女性に惹かれる傾向がある。
おもしれぇの側面は自分より頭が良かったりだとか、ずば抜けた能力があったりだとか、兎に角他人からずれている部分に、彼は惹かれやすい。
だが俺の記憶に残っていないと言うことは、そういう強烈な印象を与えるなにかが無い人物というわけで。
別に伊沢がそういう人物を好きにならないとは言わないが、ただでさえ仕事に追われている毎日。
恋なんかする暇がないとぼやいていた彼が、半年前に入ってきた、しかもアルバイトの女性に惚れるとは。珍しい半分、騙されているんじゃないかと心配半分が、俺の正直な所だ。
「 ……くふふっ……ふふふふふっ…… 」
「誰かあの不気味なのどうにかしてくんない?」
須貝さんの言うとおり、伊沢は先程から手元のスマホを見つめて気味の悪い笑みを浮かべ続けている。彼の近くを通る人間もなるべく伊沢を見ないよう努めていた。
お前社長なんだからさ。少しは周りの社員に気を遣えよ。
なんて、あの状態の伊沢に言ったところで聞きやしないか。
別に周囲の仕事に多大な支障が出てる訳じゃないし、あいつも普段はいろんな場所を行き来しているのだから、気味の悪い笑い声くらい許してやろう。
「 なに、そんな面白い画像あんの? 」
「 え?別に面白くないですけど。ただ可愛いなぁって 」
「 ……動物? 」
「 まぁ小動物ですよね、あれは 」
ぐふふふ、と質問を投げ掛けた福良への返答もそこそこに、グレードアップした不気味な笑い声が静かなオフィスに響き渡る。
ここまで来るといっそなにを見ているのか気になる。
あいつが猫派だというのは知っているが、猫なんかであんな笑い声が出るとは思えない。多分もっと別のなにかだろう。
「 お前はさっきからなに見てんの? 」
「 河村さんも見ます? 」
「 見て良いなら 」
お、意外と簡単に上手くいったな。
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時