エールで全て清算 ページ6
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「 そういえば、下で社長と会ったんですけど、オフィスに来られました? 」
「 え、伊沢?可笑しいな。まだ他の撮影がある筈なのに 」
「 撮影、ですか? 」
「 うん。テレビのね。だから今日は一日オフィスに顔出せないって連絡あったんだけど 」
時間に余裕出来たのかな。
顎に手を当てながらそんなことを呟く福良さんの横顔を見つめて、私は入ってきた編集部屋の入り口に視線を向ける。
そんなに大変な時だったのに、例の『 Aちゃんレーダー 』とか言う不確かな勘を信じて、わざわざ車を走らせてきてくれたのか。
やっぱり社長はよく分からない。
一アルバイトの人間にそこまでするメリットはなんなのだろう。
「 まぁ、あの伊沢のことだから、しずくちゃんが関わってたらスケジュールに穴を開けるなんて余裕かもね 」
「 は、はぁ……私が関わってたらというのがよく分かりませんが」
「 俺もよく知らないんだけど、伊沢、しずくちゃんのこと大好きだから。許してやってね 」
「 福良さんまでそんなこと…… 」
大好き。確かにそれらしい発言は幾度となく聞いてきたが、それら全ては結局冗談に過ぎないんじゃないだろうか。
こちらまでその気になって告白を受け入れた瞬間、「 冗談に決まってんだろ 」と一刀両断……うーん、伊沢社長がそんな人には思えないが、無いとも言いきれないのが現実。
大体、私みたいな芋女を、顔もそこそこ良くて、東京大学出身で、若くして社長とCEOやってて、最近はテレビに引っ張りだこの人物が、「 料金は愛の告白ね 」とか言ってくるほど好きになってくれるということの方が現実味がないのである。
―――ブブッ
「 ん、誰だ? 」
福良さんにもお許しを貰い、自分のデスクに着くと、ポケットの中でスマホが振動する。
確認するとそれは伊沢社長からのLINEで、めずらし〜〜〜〜と半ば感動さえ覚えながら、通知をタップしてトーク画面を開いた。
送られてきたのは、現場の写真とシンプルな一文。
〈 料金は良いのでエールください 〉
ふふっ、なんだこれ。
〈 ファイトです 〉
〈 もっと心を込めて!! 〉
〈 ファイト!!!! 〉
〈 いっぱああつ!!!! 〉
〈 おやすみなさい 〉
〈 ちょっと待って 〉
……くっそ。社長とのLINEを普通に楽しんでしまった。
A、一生の不覚。
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時