積もれば山となる ページ44
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反応したら敗けだと自分に言い聞かせ、罪悪感を抱きながらも、スマホを再度伏せる。
一度返信を返してからずっとこの調子だ。
いつのまにかスケジュールも把握されてるし、正直なところ怖い。ストーカーとまでは行かないけど、体感的にはそれと大差ないと俺は思ってる。
ずっと振動し続けるスマホに、とうとうAちゃんも訝しげな表情を浮かべ始める。
どうかなにも聞かないでくれ。
「 急ぎ……では? 」
「 大丈夫。迷惑メールみたいなもんだから 」
こんな言い方、女性からの連絡に対してするなんて最低と言われるかもしれないが、俺にも弁解させてくれ。
俺だって一度や二度くらいで無視を決め込んだりしない。
ご飯への誘いだって、断るにしてもそれなりに丁寧な対応するつもりだし、なんなら一度している。
でも彼女は朝でも昼でも夜でも、時間帯関係なくメッセージを送ってくるのだ。
一度断ったご飯の誘いもあれから何度もしてくるし、どっちの服が良いですかに至っては俺じゃなくても良くない?なんで俺なの?俺そこまでの仲じゃないと思うんだけど?
とまぁ、そんな感じなのである。
仕事に加え、絶え間なく送られてくるメッセージに対応できるほど、俺は余裕のある人間ではない。
常に仕事をしていたいから敢えて余裕を作っていない、の方が正しいかもしれないが。
「 迷惑メールなら良い方法ありますよ 」
「 あ、ちょ、待って見ないで! 」
頭を抱えているうちにAちゃんがそう言ってスマホを持ち上げてしまって、取り返そうにも、もう遅い。
彼女は画面に表示されているであろう山のような通知を目にして、そのまま硬直してしまった。
あぁ、Aちゃんにだけはバレたくなかった。
彼女にとっては身を呈して守らなければならないほど大切な後輩なのに。
そんな後輩からのメッセージを無視してるなんて知られたら、絶対嫌われる。
弁解とか以前に嫌われる。
「 ……なにも見てないことにします 」
「 是非ともそうして 」
「 モテるというのも大変ですね 」
だがAちゃんは最後にそれだけ言って、特に嫌った様子もなく、いつも通りデスクに戻っていく。
……そうだ、俺はなんの心配をしていたんだ。あの子が訳も聞かず嫌うような子じゃないと分かっていたのに。
最低だわ、俺。
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時