日常に恋のスパイス ページ33
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バイトを終えて河村さんの元に戻ると、彼はコーヒー一杯で今まで凌いでいたようで、空になったコップを手に窓の外を見つめていた。その姿すら様になるのは、彼が持っている容姿故だろう。
彼の正面に腰かけて、椅子に鞄を下ろす。すると窓の外に向いていた視線がこちらに移されて、私を視界に入れた河村さんは、緩慢に微笑んだ。
「 どう?考えてくれた? 」
「 その前にどういう経緯でそうなったのか教えていただきたいです 」
「 深い意味はないよ。君が彼女なら、今日みたいなときに呼び出せるなって 」
「 なかなかクズいですけど、それだけじゃないですよね 」
「 ……ふふっ。ただ鈍感って訳ではないみたいだな 」
まだ話は続くのだろう。彼は通りがかった店員にアイスコーヒーを注文すると、再び私へ顔を戻す。
どうせなら私もなにか頼めば良かっただろうか、と後悔したのは、店員の姿が厨房に消えた頃だった。
彼は机上で指先を組み、しとしとと降り注ぐ視線を視界に入れる。
話す気があるのか無いのか。勿体ぶったようになかなか口を開かない彼に痺れを切らして、仕方なく私の方から話題の軌道修正を行うことにした。
「 さっきの発言は、肯定ってことで良いですか 」
「 そうだね。……僕はさ、実は結構君のこと気に入ってるんだよ 」
「 ……急にどうされました? 」
「 だからね、賭けをしよう 」
「 聞いてないし 」
軌道を修正しても秒で脱線していく彼に必死になるのが馬鹿らしくなって、もう流れに流されるまま「 賭けとは? 」と質問を返す。
その問いに対して「 待ってました 」と言わんばかりに眼鏡の奥の瞳を細めた彼は、さながら人を陥れる化け狐のよう。こんな人を仲間に率いれたなんて、伊沢さんの人を見る目は相当だ。
彼の組まれていた指先が、徐に宙へあげられる。一本、人差し指が立てられた。
「 まず、僕は君と伊沢の関係が非常にじれったい。だからもしあいつが君を奪っていったら、君の勝ち 」
「 まぁまだ付き合うとは言ってないんですけど 」
私の言葉は完全にスルーされ、一本、今度は中指が立てられた。
「 だけどもしあいつが君を奪えなかったら……その時は、僕と本気で付き合わない? 」
妖艶に微笑んだ彼は、一体その瞳の先でなにを思っているのだろう。
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時