所詮はアルバイト ページ25
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伊沢さんが床に倒れた音で、撮影中だった皆さんも一斉に編集部屋に入ってくる。
彼らは私と伊沢さんに視線を行き来させると、やがて私を押し退けるように社長の元に駆け寄って、各々意識の無い彼に声を掛け始める。
私は、なにもすることが出来なかった。
彼が倒れる前も。
倒れた後も。
ずっと、ずっと。
「 あ、あの、伊沢さ……社長は、大丈夫なんですか 」
「 うん。多分高熱で倒れただけだから。あとは俺達が対応するし、しずくちゃんはもう作業に戻って良いよ 」
「 いや、でも 」
福良さんに肩を支えられている社長を見て、キリッと胸が痛む。
今彼はこんなに苦しんでいるのに、私のせいでこんなことになってしまったのに、私だけのうのうと仕事に戻って良いのだろうか。
元を辿れば私が傘を忘れたことがいけないんだ。
そうすれば彼は濡れることは無かったし、こうして風邪を引かせてしまうこともなかった。
私が、私が全部。
申し訳なさにどうしたらいいのか分からなくなって、咄嗟に、社長を支えている福良さんの服の裾を掴んでしまう。
こんなときに引き留めてしまって、うざい女だろうか。彼らだって撮影があるのに、私なんかの説得に使う時間なんて、きっと無いだろう。
でも、このまま引き下がるわけにはいかない。
だって私には、彼に迎えに来させてしまった責任がある。
「 あの、私にもなにか 」
「 ほんとに大丈夫だって。社長のことは、俺達社員が何とかするから 」
なんてことない福良さんの言葉に、私の指先はピクリと痙攣した。
初めてしっかりと感じた、私と彼らの差。爪先にくっきりと引かれている、白線。
分かっていた筈だったのに、理解していた筈だったのに、今更傷ついている自分がいる。自分がアルバイトだってことくらい知ってたじゃないか。何を、今更。
徐に指先を離すと、福良さんは僅かに小首を傾げて社長を仮眠室に連れていった。その背中を、私はただ呆然と見送る。
所詮私は一アルバイトでしかない。社長に気安く近づいていい立場じゃないし、ずっと一緒にいる彼らとは、立っている場所も心の距離も違う。
なにを自惚れてたんだ、私は。Aちゃんって呼ばれすぎて感覚が狂ったか?これが当たり前だって?
「 しずくさん? 」
「 ……すみません。私仕事に戻りますね 」
ほんと、勘違いも甚だしいや。
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時