時にはカッコ悪く ページ24
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カッコ悪いかもしれないが、風邪を引いた。理由は単純明快。雨の中Aちゃんを迎えに行ったからである。
あの日は車で行くより走った方が早かったのだから仕方ない。
お陰でびしょ濡れにはなったが、Aちゃんを濡らすことなく無事に家まで送ることが出来た時点で、俺の任務は達成したと言えよう。
困ったのは翌日だ。頭が馬鹿みたいに痛くて体が重たい。
今日はオフィスでの仕事しかないから不幸中の幸いだったのだが、それにしたって体が鉛だ。ベッドから出るのも一苦労。半分這いずり回っていた。
「 ……また来てる…… 」
スマホを確認すると、以前連絡先を交換した( することになった )白石さんからのLINE。
普段からLINEは見ないのだが、彼女からのLINEはなんだか怖くて通知をオンししている。
今日も朝から大量のおはようLINEが送られてきていた。お陰で最近の朝の日課はこれの確認になっている。本当に白石さんには彼氏なんて居るのだろうか。
「 あ、おはようございます。社長 」
会社に行くと、Aちゃんの幻影を見た。ただでさえバイトを掛け持ちしていて、大学にも行っている忙しい彼女が、オフィスに居る筈がない。
よほど俺は一肌、というかAちゃんが恋しいらしい。幻影にまともに対応するのはバカらしいが、もしかしたら他の人物をAちゃんと錯覚している可能性もあるので、一応挨拶は返しておく。
取り敢えず、近くに居た河村さんが幻影でないことは分かった。
彼なら今ここにいてもなんら不思議はない。
Aちゃんはない。あの子ほんとに全然オフィス来ないもん。下手したら一ヶ月に一回くらいしか来ないんじゃないのか?
「 無理すんのは良いけど、他に移す前に帰れよ 」
「 …… 」
河村さんの中で俺はもうすっかり『 風邪 』らしい。まぁ、それで正しいのだが。
諦めて白状しようか。そう思うが、口が思うように動かない。頭の中が急にぐわんと歪んで、視界が一気に霞んできた。
あぁ、これは、かなりまずい。
自分の身の危険を感じたときには、俺の視界は天井に向いていた。
天井と、あとそれから……Aちゃんの、不安そうな顔。
「 伊沢さん!聞こえますか!伊沢さん……っ!! 」
そんな顔しないでよ。居ない筈の君に伸ばしかけた手は呆気なく空を切って、俺の意識は遠退いていった。
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時