肉まんで元気百倍 ページ15
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「 どう？肉まん美味い？ 」
「 ……美味いっす 」
車内で聞かれた肉まんは断ったのだが、気づけば私は見事に餌付けされていた。
これは完全に私の落ち度だ。
コンビニの駐車場に「 トイレ行きたいから 」という理由で停めたときから怪しむべきだった。一直線にホットショーケースの前に向かったときはもっと怪しむべきだった。
結局社長に肉まん奢らせちまったよ。くそう。
多分なかなか居ないんじゃね？社長に肉まん奢ってもらったアルバイト。私は聞いたことない。
肉汁のジューシーさと罪悪感を感じる肉まんを頬張りながら、ハンドルに手を添えた社長を盗み見る。
彼は肉まんにかじりつく私を見て、何故か心底幸せそうに微笑んでいた。
当たり前だが、この時点で盗み見は失敗した。
けれどなんでこんなにも嬉しそうなのだろう。人の食事シーンなんて見て楽しいか？自分の金で人が食べている姿を見るのが好きとか？うわぁ、特殊な趣味ですね。勝手な偏見ですけど。
「 楽しいですか。私の食事シーン見るの 」
「 動画に収めたいくらいには可愛い 」
「 質問聞いてました？ 」
私のことを可愛いなんて言う物好きは、きっと後にも先にも彼だけだ。
大学デビューする際に髪は茶色に染めたが、目立つ要素なんてそれだけだし、大抵相手には忘れられている。
今だって、無駄にオフィスで認知されているのは、『 社長 』が妙に構っているアルバイトという、『 社長 』という名詞が付いているからだ。
もしも彼が私に構わなければ、今頃は影薄くライターをしていただろう。
ただちょっと、運が良かっただけ。
ただちょっと、彼の目に留まっただけ。
私なんて、ただそれだけの存在にすぎない。
「 さて、Aちゃんの食事シーンも見れたし、今度こそ送ってくよ 」
「 別にここへ降ろしてもらっても自力で帰れますけどね。雨も弱まってますし 」
「 それで風邪引いたらどうすんの？！俺オフィスから飛び降りるよ？！？良いの？！？良くないでしょ！！ほら止めて！！俺を止めて！！！ 」
「 急にヘラるのやめてください 」
この社長はいつ会っても元気だ。
あんなにもテレビ出演して、動画も撮影して、編集して……普通なら無気力になってもおかしくないのに。いつ会っても、この人はそんな姿を見せようとしない。
社長は、一体いつ力を抜いているのだろう。
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作者名：朝田 | 作成日時：2020年12月3日 19時
