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どちらが早いか ページ50









 あれから全てを吐き出した彼女は、泣きつかれたのか、そのままコテンと眠りについてしまった。今はもう無防備にソファーで眠っている。
 一応俺も男なんだが、こうも無防備に寝られると逆に襲う気も失せるな。まんまと罠に嵌まるようで癪だ。







「 んん……しゃ、ちょ…………きもぃ…… 」
「 夢でもなんかしてんのかあいつ 」







 まぁ現実世界であれだけ絡まれてたらそうなるか。
 ……キモいなんて言っておきながら、本人は心底幸せそうだけど。

 取り敢えず、このまま彼らのことを傍観することは流石に出来ないし、あいつに連絡を取ってみよう。そう思いダメ元でメッセージを送りつければ、意外にも既読はすぐについた。
 文面に『 しずくさん 』を入れるだけでこうも違うのか。それか、あいつもあいつで神経質になっているのか。








< しずくさんとなんかあった? >
< Aちゃん、今河村さんと居るんですか? >
< まぁね。今横で寝てる >







 勢いで送ってから、少しの後悔が生まれる。この文面だと想像力豊かなあいつには色々と誤解されそうだな。
 訂正を入れるべきか、あいつの想像力を信じるか。その二択の間で揺れていると、数分おいて返信が来る。







< そうですか >







 ……ふーん、お前はそう来るんだ。

 多分、この時の俺は僅かに苛立っていた。折角彼女の心を手にいれているくせに、いざこんな状況になっても、動揺一つしない。正確には、動揺一つ感じられない。
 本当に好きなんだったら、力付くで奪いに来いよ。彼女は俺のなんだって、俺の前で堂々と宣言して見せろよ。




 お前がそうしてくれなきゃ、俺は何のためにここに居るんだよ。なぁ。







< 初めてだったみたいだよ、彼女 >







 男の部屋に来たのが、ね。
 今度はわざと誤解させるような文面を選んで、送りつける。最低だろ。分かってるよ。でもこいつはここまでしないと、きっと現状に満足して、その場から動かない。

 キスの件が本当か嘘かについては、そのうち聞いてやる。だから今は本気になってほしい。このちっぽけな彼女のために、本気になって、この家まで奪いに来いよ。







< 俺、もう遅かったんですね >








 遅いとか早いとか、そんなの関係無いって。馬鹿みたいに突っ走るのがあいつだった筈なのに。
 俺は、そんなお前を前にして、しずくさんを手放せる気がしない。








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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時

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