灯火、ゆらり。-1 ページ42
(side you)
今日予定していた企画の収録は全て終わった。
長くなった日はまだ落ちず、夕日がオフィスに差し込んでいる。
「サブ撮る?」
「これだけいるし、せっかくだから撮ってもいいかもね」
プロデューサー組が言葉少なに打ち合わせし、緩い雰囲気のままカメラが回る。
皆が集まって軽いボードゲームをわいわい進める最中、おもむろに伊沢くんが画面外の水上くんを呼んだ。
「水上ー、オフィスいるならちょっとは貢献しろー」
「えー」
「この人、水上をダシに使ってるよ」
サブということもあって、明確な台本はない。
彼は編集長という立場から、動画の再生数についてあの手この手を駆使しているのだろう。
須貝さんも同じ思考に至ったらしく、苦笑いでツッコむ。
呼ばれた当人は依然として本から目は話さないものの、マイクに乗るレベルの大きさで声を発して答える。
そして、何を思ったのか伊沢くんはするりと目線を隣の水上くんから私にずらすと、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「A、お前でもいいよ?」
「うっわ、本当に見境なくなってる」
「…てか動画内でAさんの名前出すの初じゃない?」
いきなり名前を呼ばれて目を丸くしていると、こうちゃんが引いたようにリアクションする。
それに呼応するように、山本くんがこてん、と首を傾げつつ疑問を呈する。初登場(名字だけとはいえ)を果たしてしまった…。
これは表舞台に立ちたがっていなかった弟に申し訳ないと思いつつも、不可避だったのでは?とも思う。
「今日テンション高めだから、許してくれそうだなって」
「確かに、それはある」
「笑わないイケメンが笑ったから、今日はA記念日…」
伊沢くんが悪びれなく笑うと、須貝さんと河村さんが悪ノリする。この人たち、面白がってる…。
声に出さず、Noの意思表示として手を軽く左右に振る。それすらも燃料になるようだったけれど。
「Aの記事、文も綺麗だからその辺でファンもいるしね」
「水上の紹介ってとこがまたね…」
福良さんが何故か自分のことのように誇らしげに語り、川上くんも頷く形で続けた。
む、無駄にハードルが上がっている。
顔出しをしないことによるミステリアスさみたいなものも加算されていっている気が…。
―と、おもむろに水上くんが立ち上がった。
どうしたのだろうと見上げると、すい、とこちらを横目で流し見ると皆の元へ歩いていく。
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作者名:猫 | 作成日時:2020年8月14日 20時