閑話休題、熱をあげる-4 ページ40
音の方向へ向かうと、薄く開いた扉から、人が見えた。
うつ伏せで床に倒れている様子に、肝が冷える。
慌てて駆け寄って、肩を軽く叩きながら声をかけた。
うう、と呻くように声を発した彼女は、ゆっくりと頭をあげた。
「帰ってきたら、だめだって…言ったのに」
ぼおっとした虚ろな瞳で、俺を捉える。熱に浮かされて、意識が朦朧としているようだ。
こんな状態なのに一人で何とかしようとするなんて…無茶な人だな。
「…とりあえず、ベッドに戻ろう?」
四肢を動かすのもやっとな彼女を支えながら、後ろにあったベッドに横たえる。
燃えるような温度を持ったその身体は、触れただけで壊れそうな程細い。
無理して動いたからか、息が少し上がっているようで、なんとも苦しそうだ。
一度リビングに戻って、必要なものを持ち出し、残りの食材などは冷蔵庫に入れておく。
再度彼女の部屋に戻ると、先程よりは落ち着いた様子でひとまず安心した。
「熱は?測った?ご飯は?」
とりあえず、今の状況を把握しておきたい。
端的に質問を投げかけると、眉をひそめて彼女は呟く。
「熱は…30度、ちょっと。ご飯は、むり…」
いや、30度ちょいは逆に死んでるでしょ。
病人にマジツッコミをしそうになるのを押さえて、少し考える。
この物言いだと…むしろ40度に近い可能性があるな。
―なんて謎解きのような思考になっている場合ではない。
本当は食事をとらない状態ではよくないが、熱を下げることを最優先にすることにして薬を取り出す。
おくすりが飲めるようになるゼリー状のやつ、と共に用意して、彼女を起こす。
「薬、飲んどこう?」
「うう、んん…」
言葉とも呼べない何かを発した彼女は、上体を起こそうともぞもぞしていたので、さっと手を入れて支えた。
薬が入ったゼリーの容器を渡してみたが、スプーンにうまく薬が乗らないようで、腕を重たそうに動かしている。
数十秒待ってみたが、これは俺がやった方がいいな、と判断してスプーンを横から奪う。
力なくなすがままの彼女は、俺のすくったゼリーを小さな口で受け止めた。
入りきらない数滴が端からこぼれて、首を伝う。
―途端、良からぬ感情が首をもたげてきたので、必死に彼女を雛鳥に変換して耐える。
…餌付けだ。
これは、餌付け。
自分を洗脳するように脳内で言い聞かせつつ、彼女が飲み込むのを待つ。
こくん、とその喉が動くのを見届けて、また身体をゆっくりと横たえる。
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作者名:猫 | 作成日時:2020年8月14日 20時