閑話休題、熱をあげる-3 ページ39
聞くとAの家は俺の家とオフィスの間くらいにあったので、今日はそのまま帰宅することにして、オフィスも無人になるため施錠する。
カチャン、と錠の落ちる音が静かな廊下に落ちた。
隣で一緒に外に出たAは、相変わらず浮かない顔をしている。
一度不用意な発言をしているので、(たかが風邪だ)とも言えず、ぽんぽん、と広い背中を鼓舞するように叩く。
「大丈夫、大丈夫」
何の根拠のない言葉だったけれど、彼は「はい」と小さく返事をして、再度頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「うん、任せて」
大切な家族なんだなあ、と、自らはたまにしか帰れない故郷を思い返しながら―Aの家へと向かうのだった。
***
Aの地図と分かりやすい補足説明があったので、少々入り組んでいたが迷わずに家までは辿り着けた。
一応、とインターホンを鳴らして様子を伺ってみるが、誰も出てくる気配はない。
預かっていた鍵で玄関へと入る。ポタポタと水が滴る傘をシューズボックスに立てかけて、靴を脱いだ。
「おじゃましまーす…」
起こしていいのか判断に迷い、中途半端な声量で静かな空間に挨拶をする。
当たり前だが、誰からの返事もなかった。
そのまま廊下を抜けて、リビングに持参したものを置く。キレイに整頓された家だ。
部屋の換気もしようと窓に近付いたところで、奥に配置された仏壇に目が留まる。
制服姿の子供が二人と、大人が二人。皆、幸せそうに笑っている家族写真だ。まだ幼い顔をしているが、この男の子がAだろう。
今、無表情な彼しか知らない俺にはその写真が酷く悲しく見えた。
軽く手を合わせて、カーテンと窓を雨が入らない程度に開ける。
―と、奥の部屋からドタン!と何かが落ちたような音が聞こえて心臓が跳ねた。
な、何事?
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作者名:猫 | 作成日時:2020年8月14日 20時