【QK】君の世界、私の世界 (ページ31)

今日:6 hit、昨日:2 hit、合計:21,259 hit

閑話休題、在りし日の君へ-4 ページ31

「あれ、河村さん？珍しいですね、こっちにいるの」
 「―伊沢こそ」 

スーツスタイルで颯爽と現れたのは、こちらもクイズ研究会の後輩だった。(クイズ歴で言えば大先輩だが) 

最近、ウェブメディアを立ち上げたばかりの彼は、もはや同僚と呼んでもいいだろう。 
かっちりしているので就活かと思えば、「また違う用で」と濁された。 
本当に活動が多岐にわたる男だ。

 すると、ふいに後ろを振り返って、思い出すように伊沢は言う。

 「そういえばさっき、水上といたのって、知り合いです？」
 「いや？あちらの女性が迷っていたから道案内しただけ」 
「え。河村さんが？めずらし」 

僕を何だと思っているのか。不遜な後輩ばかりだ、まったく。

 「―あの女の人…」 

もういないはずの彼女を思ってか、目線がふわりと右上に浮かぶ。 

「どっかで、会ったことある気ぃするんだけどなあ」
 「…それを僕に言われてもね」 
「ははっ、たしかに！あ、そうだ、次の記事なんすけど…」 

そう言って笑った伊沢は、もう既に次のことを考え出していて、その思考の早さには舌を巻く。

 一通り仕事の話をしたあと、唐突に時間を思い出したのか、「やべ！あとはメールしますんで！」と叫んでバタバタと走っていった。
慌ただしいやつめ。

 そして僕はまた一人になると、ふう、と息を吐いて―彼女に言われた通り―授業、頑張るかあ、とまた本郷へと戻るのだった。 

「―あ、名前、聞き忘れたな」 

それからしばらくは、赤門をくぐる度、彼女の姿を無意識に探していたのだが―…これはまた別の話。