閑話休題、友情の始まり?-3 ページ23
「―だから、医者?」
「…人は、必ず死ぬからね」
「まあ、仕事として安定はしてるよなあ…」
Aが読む本は、基本的には日本文学、たまにミステリー、そして医学書だった。
単に医学に興味があるのかと思えば、医学部を目指しているというので驚いた。
俺の動機とは大分違うが、直近の目指す場所は同じらしい。
「医学が普通に面白いっていうのもあるけど」
彼の物言いだと、医者としての使命に燃えているというわけではないようだが―何故か誰よりも向いているようにさえ感じる。
「俺のにーちゃんより本読んでるしなあ…」
兄も医師を目指すものとしてこの年まで一緒に育ったが、彼はAほど本の虫ではなかった。
まあ、本をたくさん読んでいたらいいという訳でもないと思うけれど。
その言葉に、少し考えるしぐさを見せるA。
彼にしては珍しく、言葉に詰まっている様子である。
少し待ったが、空中を浮遊する目線は降りてこない。何か、言いにくいことがあるようだ。
「…なんだよ」
しびれを切らして軽く問いかけると、トン、と指先で机を叩いて自分を鼓舞するように、けれど静かに、彼は言う。
「いや…水上、今週の土曜って…時間ある?」
「は」
思いもよらぬ言葉に、まぬけな音が口から漏れた。
まさか、こいつから週末の予定を聞かれるとは。
ぽかんとした顔の俺と、居心地が悪そうに姿勢を直すA。
図書室という場所も相まって、二人の間にガチの静寂が訪れた。…今、天使通ったな。
変な思考回路になりそうなところを慌てて戻して、回答のために自身のスケジュールを思い出す。
土曜日…土曜か。
「土曜は夕方からなら空いてる、けど」
空いていれば何なのか、今の会話の流れからだと全く汲み取れない。
そう答えた俺の言葉に少し安心した様子のAは、「嫌じゃなければでいい」と前置いた上で、家に遊びに来ないか、と誘ってきた。
なんでもAの姉が久しぶりの休みでご飯を作ってくれる、らしい。
なるほど、兄弟の話題繋がりだったのか。
突拍子もなく話題が変わる人間ではないと思っていたが、思わぬ経路だった。
「ええ、姉弟水入らずなんじゃないんすか」
少し茶化してみるが、これは特に気にされなかったようで、淡々と「別に」と返されて肩透かしを食らった俺である。
おもしろくねー、と悪態付きながらも、誘いは二つ返事で了承した。
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作者名:猫 | 作成日時:2020年8月14日 20時