邂逅、そして。-13 ページ17
「…いえ、特に」
だが、それを提出するわけにはいかない。
表情に出してしまったことも既にマズいのだが、意見することはそれ以上にマズい。
こういう場において、弟は自分の意見を明言しない方だった。
例えそれが正解に近くても、皆の総意と共にあろうとする、はず。
煮え切らない回答に、伊沢くんではなく両隣の福良さんと須貝さんが再度問いかけてくる。
「気になることは言ってよ。この間の意見とかも、すごい参考になったんだし」
「それなー。Aってたまに、盲点つくことあるよなあ」
この二人の言葉に、私は姉として少し虚をつかれた気分だった。
事なかれ主義だったあの子が、この場で意見を表明しているという事実が、驚きである。
ーそれほど、QuizKnockという場所で物事の捉え方を変えられて、成長したということなのだろう。
「…じゃあ、参考程度に、ですがー」
あくまで一意見として、ソフトに私の意見も告げることにした。
それを受け入れるかどうかは皆に委ねよう。
***
「おっけ。確認したかったのはこれくらいだから、えーと。福良さん、」
「うん。昨日送ったスケジュールの二つ目のやつからね」
流石に数年チームをやっているだけあって、阿吽の呼吸である。
色々と話題が盛り上がりつつも、だらだらと会議は続かないようだ。
伊沢くんが定位置に移動すると、周りのメンバーも各々自分の役割へと戻っていく。
次の撮影に参加しない様子の山本くんが、スマホを見て何かに気付いたようで、河村さんへと何かを伝えている。
それを聞いて、ふむ、と考えた様子の河村さんだったが、離れた場所で収録開始しようとしていた福良さんへ声をかけた。
「福良。こうちゃん、予定より早く来れそうだって。次の企画どのくらいかかる感じ?」
「あ、ほんと?じゃあこっち先にやろうか。えっと、だからー…」
急な予定変更にも迅速に対応できる福良さんは、社会人目線から見てもすごくデキる敏腕プロデューサーである。
弟はこんな仕事のできる面々に囲まれて、成長できているんだと感じてまた何とも言えないありがたい気持ちになってしまった。
帰ったらもっと話聞かないとなあ。
私に出来ることは限られているので、また水上くんの隣へと移動して、じっと座って大人しくしていた。
…横目で見たところ、彼の読書スピードが恐ろしくて白目を剥きそうになったことは内緒である。
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作者名:猫 | 作成日時:2020年8月14日 20時