邂逅、そして。-7 ページ11
「せっかく来たなら、水上も動画出てく?」
「えー。どんな企画っすか」
「えっとね…」
私を挟んで会話をする二人に対し、特にやることもないのでぼんやり虚空を眺める。
弟であることは、案外話さなくていいから省エネで良いかもしれない。
彼は何か原因について糸口が見つかっただろうか。
「ー…じゃない?ね、A」
「…え?あー。まあ…?」
いきなり福良さんから名前を呼ばれ、話半分だった私は焦りつつ適当に相槌をうった。
そのぼんやりした回答が不服だったのか、メガネのフレームをするりと撫でながら彼は続けた。
「どうしたの、A。今日めっちゃぼんやりしてない?」
「そー、ですかね」
「わかる。電話した時もなんか変だったし。夏バテ?」
内心冷や冷やしながらクールに返したつもりだったが、反対側からも追撃が来る。
水上くんは、この中でもダントツに付き合いが長い。
高校一年生からの付き合いだから、そろそろ10年といったところだ。
しかもお医者さんの卵でもある。彼の能力だと、声色だけでも簡単に体調を図られてしまいそうだ。
もうこの際、少し具合が悪いことにしておいた方がいいのではないだろうか…?
「…そんな感じ、ですかね。ここんとこ一気に暑くなったから」
首筋に手をあてつつ、熱はないんですけど。と繋げた。
実際、私が私であった時ーというと何だか大袈裟だがー昨日まで、気分の優れないことが多々あった。
仕事をこん詰めすぎていたのか、単なる夏バテなのかはわからないけれど。
それを聞いて両サイドの二人は眉をひそめ、大丈夫なの?と再度問うてくる。
首肯しつつ、(いらない心配をかけてごめんね)と心の中で謝罪しておく。
「Aが不調だって認めるのも珍しいなあ…今日、帰ってもいいよ?」
福良さんが、スケジュールを横目で確認しながらそんなことを提案してくれるものだから、内心慌てる。
何のために心をすり減らしてここにいるのかという話である。
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作者名:猫 | 作成日時:2020年8月14日 20時