じゅーきゅう。 ページ21
しばらくお互い何も話さず、静かな時が流れた。
自分のカップが空になった頃、ちら、と横目で彼女を見てみれば、中身の少なくなったカップを両手で辛うじて膝の上で支え、かくんと首を下げてほとんど眠ってしまっているようだった。
今に落としてしまいそうなカップを取り上げてテーブルに置くも、彼女の反応は無い。
彼女の部屋まで運ぼうか、…いや、許可なく女性の部屋に入るのも憚られるし、何より誰かに見られたら面倒だ。
特に、絶対騒ぎ立てるであろう学園長には見られたくない。
しかし、いくら生徒であるとは言え、女性を部屋に泊めるのは…と考えたが、不眠気味だった彼女を思うと、せっかく眠りについた所を起こすのも気が引ける。
ひとまずここでこのまま寝かせては、体を痛めてしまうだろう。
いよいよ眠りが深くなったのを確認し、致し方なく自身のベッドへ運んだ。
長い髪をアップに留めていたヘアクリップを外してやり、ベッドに下ろしても、彼女は一向に目を覚ます気配はなく、起こすことを完全に諦めて、布団をかけてやる。
今日くらいソファで寝ても平気だろう、とその場を離れようとしたときに気づいた。
いつの間にやら、自身が部屋着の上に着ていた羽織の裾を、小さな手がぎゅう、と握っていたのだ。
その小さな手は、勿論すうすうと穏やかに眠る目の前の仔犬のもの。
まるで飼い主を引き留めるように服を掴む仔犬の、その光景といったら、何と愛らしいことか。
大体この仔犬は無防備にも程がある。
穏やかな寝顔を見て、ほんの少し腹が立った。
夜に部屋着でやってきた彼女。
風呂上がりだったらしい彼女の顔はほんのり蒸気していて、扉を開けたとき、シャンプーかボディーソープか、甘いベリー系の香りが漂ってきた。
…正直に言おう、酷く煽情的だった。
今だって、そっと抱き上げた柔らかい体に、ヘアクリップを外した際の甘い香りに、目眩がしそうになった。
32歳の大の大人が、しかも教師が。
一回り以上年下の、教え子である小娘に煽られるなんて、冗談でも笑えない。
長居をすると変な気を起こしかねない、と、未だ握りしめられた羽織りをその場に脱いで部屋を後にし、予備の毛布を引っ張り出して、ソファで一夜を明かした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2421人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ツイステ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
青藍(プロフ) - 最初は国の王女だったと思うんですけど途中から女王になっているのは何故ですか？どちらが正しいのでしょうか、見間違いだったらすみません (2022年5月21日 1時) (
レス) @page50 id: 2e61a566e8 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 8ページ 本当の彼女自信 自信 ではなく 自身 ではないでしょうか？ (2021年2月15日 23時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
萌葱(プロフ) - みるさん» そうですね笑笑 (2020年10月26日 16時) (レス) id: aca7e42382 (このIDを非表示/違反報告)
みる(プロフ) - 乃亜さん» 処刑までのカウントダウン始まりました笑 (2020年10月26日 14時) (レス) id: c52392d14b (このIDを非表示/違反報告)
みる(プロフ) - イヴさん» 果たして監督生はどうして情報をもってるのか…続編でお待ちしてます！！ (2020年10月26日 14時) (レス) id: c52392d14b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みる
| 作成日時：2020年10月16日 1時
