73.さぷらいず ページ24
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バスの中の落し物や、ゴミがないかなどのチェックを終えて
バスから降りようとしたら、
今度は運転手さんに話しかけられた。
おいらが保育士としてやってくる前からお世話になっているベテランのおっちゃん。
口数は多いタイプではないけれど、
同僚になってからも長いから
それなりに話をすることもある。
でも、こんなせわしい朝の時間に
世間話のようなことをしてくることはほとんどなかったから
珍しいこともあるなぁと思ってた。
「あの？」
ふっとおっちゃんが、園舎の方に向いて頷いた。
え？ なに？
「智先生」
「はい？」
そっちにおいらも顔を向けようとしたら声をかけられる。
「あんた 本当にいい先生になったねぇ」
「へ？」
「バスの中でも、あんたの話で盛り上がってたんだよ、さっき」
「そうなんですか？」
「今日から智先生が帰ってくるって、ワクワクしてる子供たちの顔。
あんたに見せてやりたかったよ」
はははと笑って、
おっちゃんは「それじゃあ、またあとで」と
休憩所の方へと戻っていった。
「ありがとうございます」
ほんわかした気持ちをもらって、お礼を言う。
そして、ようやくバスからおりて……
「あれ？ どうした？」
もうみんなが中に入ってしまい、
玄関の大扉は閉まっていた。
その扉の前に、
悪戯な笑みを浮かべた和と潤が並んで立って
「さとし」
二つの小さな手がおいらに差し伸べられる。
「いこう」
どこに？
そう尋ねることもできないまま、
両手を繋がれ引っ張られた。
ギギィ―――。
聞きなれたはずの 木製の大扉の開く音が、耳に響く。
開かれた先の園舎内のホール。
そこに、
子供たち、先生たち、給食のおばちゃんまで
みんながこっちを向いて並んでいて
「さとし先生 おかえりなさーい
おたんじょうび おめでとう―――っ」
って、おいらに言ったんだ。
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作者名：たると
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/list/tarutolist01/
作成日時：2015年12月2日 12時
