50.彼女の事情 ページ2
.
「…………」
ポカーンと口を開けて、固まってしまった相葉先生。
信号は青になったけれど、車は動かない。
後列車もいないから、急かすクラクションも鳴らない。
「そうなんですよね？」
「!!//」
おいらの声にハッとして、相葉先生はカァッと顔を真っ赤にした。
「どどど、どうして！？///」
慌てふためく彼を見ても、
おいらにマイナスの感情は起きなかった。
「A先生が腹痛で倒れたという連絡は、副園長からありましたが」
「…………(汗)」
「その原因を彼女は伝えてなかったらしく、ご存じなさそうでした」
それなのに、
おいらのところへ飛び込んできた相葉先生は、
『A先生とお腹の子どもを助けてください！！』
と、必死な形相で訴えてきた。
《切迫流産》の危険性があるとドクターに指摘され
仕事の制限をするように言われたのに
無理をおして仕事を続けようとする。
そんな彼女を何とか止めるために、
おいらの力を貸してほしいのだと
何度も何度も、頭を下げたんだ。
「そんな事情を知っているのも、
あれだけ必死なワケも……
あなたがお腹の子の父親だからですよね」
「…………」
「おいらには、そうとしか思えないんですけど」
「ごめんなさい！！」
「別に責めているわけではないので、謝らないでください」
苦笑して、相葉先生からフロントガラスへ目線を移す。
「おいらに遠慮することは何もない。
彼女はもう……おいらの妻ではなく、一人の女性なのだから
あなたを愛することも、あなたが愛することも…………あってもおかしくない話です」
「智先生……」
「行きましょう」
信号が、３回目の青になった。
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作者名：たると
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/list/tarutolist01/
作成日時：2015年12月2日 12時
