▲午前6時の魔法使い▽［完］

月冴える ページ30

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何時もよりも遠い距離感。


グガが何かに戸惑うように、ここ二日間はやけにとっつきにくい感じだった。何がと聞かれれば答えにくい、些細な違和感。

明後日はとうとうウィンターホリデーとしてキングス・クロス駅に降りる。この違和感のまま見送るのだろうか。



誰にもまだ告げては無いが、私は今回帰らない。



帰らないというか、帰れないんだけど。冬のうちに季石の国はなんびとたりとも出入りが出来ないよう、何百年も前から強力な魔法がかけられている。








それは丁度今、窓の外に見えるように、月冴える真冬の言い伝えだった。季石の国で一番歳を召した長老様が、小さい頃から何度も話してくれた。






はるか昔、この大陸は争いごとが絶えなかった。罪のない魔法使いが何人も命を落とし、それがある時、小さな魔女に死の魔法が当たってしまった。


その小さな魔女は抗争に巻き込まれ、親を亡くし一人取り残されていた。


偶然見つけた偉大な魔法使いが、親代わりとして育てていた。その偉大な魔法使いの教え通り、少女は優しい心を持っていたからこそ、死んでしまったのだ。



彼女よりも小さな、男の子を腕の中に守って。






怒り、深く傷つき、嘆いた魔法使いは、ある時少女の一族を見つけ出すと安全な場所へと避難させた。何百年と続いた抗争を、凌げるだけの場所へ。そうして少女を守れなかったことを深く懺悔し、避難させた場所へと強力な守りの魔法をかけた。


少女と同じ優しい心を持つ一族は、魔法使いに少女を育ててくれたこと、そして避難させてくれたお礼として、彼の一族へ今現在もなお、何百年と加護のブレスレットを贈り続けている。





私の遠い親戚に当たる少女と、紺碧(こんぺき)の国の偉大な魔法使い。





長老様は夜、お酒を飲むと私の目を見てよく泣いていた。




｢あんたのその目はね、リアンそのものだよ...優しいあの子にそっくりだ...｣



泣かないで長老様、だいじょうぶだよ。




そう言ってまだ小さかった身体で精一杯抱きしめると、ぎゅうっと抱き返してくれた。そうしてあんたは本当に優しい子だ、ってそう言って、眠ってしまう長老様に毛布をかける。


何年もそうして冬を過ごした。



偉大な魔法使いの魔法は、季石の国と呼ばれるまでになっても続いている。それが、冬場に出入りのできない理由。


危険が迫る度、出入りが出来なくなる。





月冴える寒い夜、その少女は命と引き換えに真っ白な少年を助けた。





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