傷薬 2

違和感 -kazuma- ページ28

子供のような寝息を確認して、俺は早足でスタジオに戻る

メンバーにAの体調のことを軽く説明すると、みんな心配そうな顔をしていたが、今は寝ていると伝えると少しホッとしたような顔をしていた


「振り入れはここまでかな。明日は動線確認したいと思います。振り覚えてない人は明日までに頭に入れて来てください、お疲れ様です」


山彰さんの淡々とした締めの言葉を聞きながらも、俺の意識は別のところにあった


「なんかあった？」

「えっ？」

「もう終わったけど」

「あ…すみません」

「今日あんま集中出来てなかった気するけど、なんかあった？」


山彰さんがiPadをいじりながらそう質問してきた


「いや、何かあったっていうか…」

「…Aの事？」

「え？」

「Aの弱ってるところ見たんだろ。壱馬なら色々思うことあるだろうなって」


山彰さんはAのことを深く知っているかのような口ぶりだ

俺はその事に少し驚いた

なぜなら、山彰さんとAは仲が良かったが、Aが自分の事を深く話すような感じには見えなかったからだ


「山彰さんはAの事どこまで知ってるんですか？」

「どこまで…ね。どうだろうな」

「…俺、違和感があったんです」

「違和感？」

「Aがあれ程までに本心を隠す事に対して何でだろうって思ってました。何で苦しいのに苦しいって言わないんだろうって…何で寂しいのに寂しいって言わないんだろうって。必死に涙堪えて本心隠してる姿がめちゃくちゃ痛々しくて見てられなかったです」

山彰さんはiPadから目を離して俺の方をゆっくりと見た

「俺らが思ってる以上にあいつの過去は複雑なんだよな。本当の事は本人にしか分からないし」

「そりゃそうですけど…山彰さんは何か知ってるんですよね？」

「知っててもそれはあいつのほんの一部。俺から言える事は何1つ無いわ、ごめんな壱馬」


山彰さんは申し訳なさそうにしていた


「いや…何かすみません。強請る感じになっちゃって…」

「まぁ、いつかあいつが1歩踏み出したら、どんと受け止めてあげればいいんじゃん？」


山彰さんはそう一言だけ残して去っていった

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