✿毒を食らわば皿まで ページ19
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なんて事ない日常が、此処において手に入らない事くらいわかっていた。けれど、最近どうやら平和ボケしていたらしい。
夕食の席で出された鴨のローストを毒味した瞬間、今まで耐性をつけてきた毒のどれにも似つかないような強烈な拒否反応を起こした。
直ぐさま胸元のハンカチに口の中のものを吐き出したものの、呆気なく粘膜から吸収されたらしい毒のせいで嘔気を覚え、視界がぐちゃぐちゃに歪む。異変に気づいた従者達とホソク様達が椅子から立ち上がる音がやけに大きく頭に響いて辛い。
その中で微かに見えた、この場を離れようとするここ1ヶ月で入ってきたシェフ。逃走経路くらい用意する計画も練ってないのかと最早そこに苛立つ。
巫山戯んな、もうちょっと楽に意識飛ばせそうなもん持ってこい。
従者失格にも程があるのだが、何とか立っている為にテヒョン様とジョングク様の間のテーブルに左手を付き、すぐ横に捉えたカトラリーのよく切れるナイフを勢いよく投げた。
そりゃあもう、手元が狂わないように必死で。
しっかりと刺さってくれたらしいナイフに悲鳴を上げて倒れ込んだシェフから、使用人たちが後ずさって距離を取る。
よろよろと平衡感覚危なげな足取りで、ヨンジュナとスビンに捕らえられて顔面蒼白なその男の前に立つ。右太腿に刺さってるナイフで、その真っ白な制服が赤く染められていく。
『どこで手に入れた?この毒』
「し、知らない、渡されただけで、知らない!!」
『だれに』
「わか、っわからない!ふ、フード被った男だよ!こ、これを混ぜなきゃ殺すって、お、脅されて!」
ぐらぐらと視界が回る。息が上手く出来なくて、何度も浅く呼吸を繰り返す度に目の前がチカチカ点灯していた。
「Aを医務室に運んで。その男は地下牢に。後で尋問する」
ソクジン様の一声で、兵士が乱雑に腕を掴みあげ引き摺って行く中、呆気なく張っていた虚勢が身体ごと崩れ落ちる。
誰に呼ばれてるのか、何処に触れられているかも皆目検討がつかない。
喉が焼けるように熱くて、吸い込んだ息ですら燃えるような感覚。手足どころか身体に力が入らず、筋弛緩作用があるらしい。起きた時に症状を事細かに記せるようにとさまよっていた意識。
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水の中のように、遙か遠くでテヒョン、と怒鳴るような声が聞こえたのを最後に、目の前が真っ暗になった。
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▲たると▽(プロフ) - 茜さん» 長い間ご返信遅くなってすみません!ありがとうございます!励みになります! (4月20日 1時) (レス) id: 4ea375d9d8 (このIDを非表示/違反報告)
茜(プロフ) - 設定からもう最高に面白いです!描写が丁寧で情景が浮かびやすくてすごいです!続き楽しみにしています💕 (11月23日 0時) (レス) id: 1a56d20f1c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:▲たると▽ | 作成日時:2023年10月31日 0時