✿ ページ15
.
珍しくソファでお眠りになってしまった主に、扉横に控えていたヨンジュンを呼び、ベッドまで運んでもらっている間静かに食器類をカートに乗せ、戸締りを確認してから部屋をそっと後にする。
お互いフロアを離れて階段を降り切り、キッチンに移動するまで一切口を開かなかった。
「お疲れ様ですA様」
『ヨンジュナもお疲れ様。何か言伝を?』
「ええ、しかし場所がはばかられます」
『そう...では私の部屋で良いかな』
頷いたのを見て静かに洗い終えた食器を水切り場に置き、両手を拭いてから自室のある方へと足を運ぶ。
ヨンジュナはユンギ様の専属使用人を勤めている子で、私が少しの間教育係を受け持った事がある。護衛面で主に、銃と剣、体術を。
足音を決して立てないよう、どうやって走るのかも。
どうぞと促してソファに座らせ、暖炉に火を入れてから簡易キッチンでお茶を淹れる。夜も遅いから、カモミールで良いか。
缶を開ければ漂う香りに落ち着く。
ゆっくりと蒸らした茶葉から黄金色の雫が落ち切り、温めたカップに入れて砂糖を1つ。互いに口をつけて一息ついた所で、ヨンジュンが懐から出した一枚の紙に目を通す。
『社交場.....?』
「はい、どうやらA様の名が他国でも上がっている様で、これ以上出さないまま、怪しまれるのを危惧していらっしゃいます」
『なるほどね....わかりました。ヨンジュンも同行するの?』
「はい。今回は異例の事態ですから、不足のないよう付き人総勢、プラス衛兵ということで.....万が一、を想定した結果です」
成程。
情報を頭に叩き込んで直ぐに、暖炉にしっかり投げ込む。
1ヶ月後なら用意もどうとでもなるだろう。備える時間は十分だ。
それに、ヨンジュンも流石に疲れているのか瞼が重そうに見える。お茶を飲みきったら寝てもらおう。
「テヒョン様のご様子は大丈夫でしたか?」
『うん、大分落ち着かれたかな。はは、最初はびっくりしたけど』
「僕もあんなご様子は初めて見ました.....流石ですね、矢張り」
『そうかな。戸惑うよ、まだまだ。ヨンジュナこそ随分疲れてるね、目の下に少し隈が見える。今日はもうゆっくり寝た方が良いよ』
「いえ、あー.....はい、そうします。ありがとうございました、おやすみなさい」
『ううん、おやすみ』
いつもより気が抜けた様子で出ていったのを見送り、鍵を掛ける。
暖炉の中で1つ大きな音をたてて、紙は燃え尽きてしまった。
.
571人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
▲たると▽(プロフ) - 茜さん» 長い間ご返信遅くなってすみません!ありがとうございます!励みになります! (4月20日 1時) (レス) id: 4ea375d9d8 (このIDを非表示/違反報告)
茜(プロフ) - 設定からもう最高に面白いです!描写が丁寧で情景が浮かびやすくてすごいです!続き楽しみにしています💕 (11月23日 0時) (レス) id: 1a56d20f1c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:▲たると▽ | 作成日時:2023年10月31日 0時