✿垣間見える ページ13
.
何でも良いから話して。
そう言うなり自室の暖炉前にあるソファに深く腰掛けた主。動揺のあまり一瞬何を言われたかわからなかった。早くしてと急かされて、明日は雨みたいですねと慌てて口にする。
返答はないから本当に喋るだけ喋らせる気らしい。
『久々の雨なので、庭先の花も枯れてしまわないかと庭師が心配しておりました。テヒョン様の好きな薔薇も今急遽雨避けをしている最中で.....また薔薇のスコーンを頼んでおきます』
『因みに今日ナムジュン様がグラスを1つ割ってしまわれまして、執事長が慌てるあまりもう1つ割ってしまわれた、とか』
ぱちぱちと音を立てる暖炉を見つめる横顔が、少しづついつもの雰囲気を取り戻しつつあった。
今日何があったのかを、わたしは知らない。
『.....ご無事にお帰りになられて安心致しました』
血濡れで帰ってこられた時は肝が冷えた。何処か怪我してるんじゃないかとか、今にも倒れるんではないかとか。
ジョングク様が言っていた、テヒョン様が本気を出せば、の話を思い出して、ああこういう事かと納得がいった。天性の才能なのかもしれない。
それと今までになかった雰囲気で黙り込んだまま湯あみを終えられ、自室に戻って漸く口を開いたと思えばこんな無茶を。
『テヒョン様が帰ってこられるまで、ずっといつお帰りになるのかと考えていたあまり、夕飯後にお出ししようと思っていたフィナンシェを少し焦がしまして。慌てて焼き直したのです』
「捨てたの？」
暖炉を見ていた視線をぱっと主に戻すと、静かにこっちを見ていた。
『いえ、後で付き人達で食べようかと』
「俺が食べるから、誰にも渡さないで」
『.....いいえ、本当に焦げてしまっているので主には』
「嫌だ。お願い、俺に全部頂戴」
言葉が出なかった。こんな事にそんな真剣な目をしなくっても良いのに。どうしてそんなに嫌がられるのか。
じっと見つめられて、耐えきれなくて少し目を伏せた。
『...焦げてる部分は出来るだけ取り除くので。それだけはせめてさせて下さい』
「ふふ、うん、良いよ。後で持ってきて」
『はい』
「A、俺の名前呼んで。良いって言うまで」
抗議しようかと口を開くより先に目を瞑ってしまわれる。意を決してテヒョン様、と1回目。
やけになって数回が数十回へと達したあたりで、良いよ、と目を開けて、こっちを見て微笑んだ。
「ありがとう、A」
(知らない顔だ)
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 572人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
▲たると▽(プロフ) - 茜さん» 長い間ご返信遅くなってすみません！ありがとうございます！励みになります！ (4月20日 1時) (
レス) id: 4ea375d9d8 (このIDを非表示/違反報告)
茜(プロフ) - 設定からもう最高に面白いです！描写が丁寧で情景が浮かびやすくてすごいです！続き楽しみにしています💕 (11月23日 0時) (レス) id: 1a56d20f1c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：▲たると▽
| 作成日時：2023年10月31日 0時
