【忍たま】記憶を拭う弐 (ページ14)

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おにぎり届けるのを？ページ14

苦無を持つのも、本格的な戦闘も久しぶりだ

感覚を戻すように、歩きながら苦無を振ったりと体を動かす

｢危ないぞ、誰かに当たったらどうする｣

突然掛けられた声に思わず｢うおっ｣と変な声が漏れた

｢…当たりそうになったら気付く｣

｢今気付いてなかっただろ｣

潮江文次郎は呆れたように溜め息をついた

あまり知られていないが、Aと文次郎は親しかった

会計委員会の仕事を手伝うことが何度かあり、徹夜で共に帳簿と格闘するうちに打ち解けたのだ

｢おにぎり食べたか？｣

｢食べた｣

｢なんだ、届けようと思ったのに｣

｢……｣

｢どうした？｣

｢…無理するなよ｣

いつもに増して真面目な顔をして文次郎は言った

｢おにぎり届けるのを？｣

｢違う、馬鹿なのか｣

文次郎は再び溜め息をつく

まさかあの桜田Aに馬鹿なんて言葉を言える仲になるとは思いもしていなかった

彼女は察する力がやや欠けている

任務等に関わる話なら頭もキレるし相手の言いたいことを直ぐに汲み取って作戦へ導入出来るのに、こういう何気ない会話になると途端に察しが悪くなる

｢失礼だな、言いたいことははっきり言え｣

｢…いや、なんでもない。忘れろ｣

一度間ができて、自分の内情を話すのが妙に恥ずかしくなった文次郎は、そう有耶無耶にして歩き出した

変な奴だな、とAは呟いて、文次郎の後に続いた

無言

その時間が、目前に迫っていた

.

忍術学園の上級生、教師、そしてAは、各々の配置についてじっとその瞬間を待っていた

それぞれの部屋に灯る蝋燭の明かりも、同室と話す微かな話し声も、今夜は無い

静寂と静かな闘志が学園を包んでいた

喜八郎は、自身の相棒である踏鋤をギュッと握りしめ、目を閉じた。自分が学園の周りに仕掛けた大量の罠が音を発したら、襲撃の合図だ

耳に神経を集中させる

毎日耳にする元気な下級生達の声は、今夜は聞こえない
からくり少年たちがいつぞやに作った地下室で、同じように息を潜めているのだろうか

僅かに唸る風と、それによって共鳴する葉が擦れる乾いた音

隣で同じように待機する同級生と先輩の微かな息遣い

きっと、すぐに＿＿

張った糸が切れ空を切る音がふと喜八郎の耳に入る

｢…来た｣

そして直ぐにカランカランと乾いた高い鈴の音が、その場の全員の耳に届いた

塀の上に次々と現れた黒い影を、先程まで隠れていた月がぼんやりと照らし始めた