そういう時はすまないじゃなくてありがとう、な ページ13
「留三郎、守一郎」
「亜月、どうかしたか?」
用具倉庫に顔を覗かせ、名前を呼ぶと作業をしていた二人が顔を向けた
「食堂のおばちゃんからの差し入れ、持ってきた」
そう言っておにぎりを顔の横で見せると、途端に二人は顔を明るくする
「ありがとうございます!作業が一区切りついたら食べますね」
Aからおにぎりを受け取った守一郎はいつもと変わらぬ笑顔で言った
Aは違和感を感じる
彼らのこの余裕はどこから生まれるのだろうか
「…お前らは…」
「そうだ亜月、渡したい物があるんだ」
「…渡したい物」
Aの問い掛けが聞こえなかったのか、留三郎はそう遮って、倉庫の隅の方を指さした
「苦無、手裏剣、忍刀、焙烙火矢、その他諸々、戦闘に使う武器だ。持ってないだろう。どれもちゃんと手入れしてあるから、好きなのを持ってってくれ」
「種類豊富だな。万力鎖に鏢刀、戦輪、南蛮鈎まで…」
「用意してあるのはほとんど、上級生の得意武器だ」
綺麗に並べられた武器を取って感心するAに、留三郎は少し自信げに答えた
「凄いな」
「え?」
「扱うのが難しい物や珍しいものばかりだ。それを使いこなして得意武器にするなんて、忍たまの上級生は凄いな」
武器から視線を外さずに言うAの後ろで、留三郎と守一郎は顔を見合わせる
「…亜月さんって意外と素直に人を褒めますよね」
「意外とって、失礼な」
「無自覚ですか?」
「どういう意味だ、そんなに変か?」
「無自覚なんですね」
よく分からない、といった表情で首を傾げるAに留三郎は耐えきれず吹き出した
「なんだよ…」
「いや、ギャップが…」
「はあ?」
眉間に皺を寄せて睨むAを、守一郎は「まあまあ」と宥め、横に並んでしゃがんだ
「それよりも、亜月さんは何を戦闘に使うんですか?」
「苦無、手裏剣、刀、焙烙火矢は持っておくが…他をどうしようかと。得意武器が無いから悩んでる」
「だったら無理に持たなくてもいいんじゃないか?邪魔になるだけかもしれないし」
守一郎と反対側にしゃがんだ留三郎が言った
「それもそうだな。すまない、せっかく用意してくれたのに」
「そういう時はすまないじゃなくてありがとう、な」
「…ありがとう」
留三郎は満足そうに頷いて立ち上がった
114人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:たると | 作成日時:2022年5月8日 19時