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「A…?」


驚いて目を開けると、寝ていたはずの倫也が心配そうに私をのぞき込んでいた。

「なんで泣きそうなの」

何でもない、とふるふると首を横にふる。
声を出せば涙が零れてしまう。泣いた理由を聞かれても自分にもわからないものは答えられない。
そうなると倫也を困らせてしまうと、目頭にぐっと力を入れる。

倫也はしばらくの間、身じろぎひとつしない私を見つめていたけど、視線を落として私の足に目をとめた。

「怪我、どうしたの…?」
「……。」
「僕と話すのやだ?」
ただ首を横に振る。
「Aにさわってもいい?」

さっき手を払いのけたからか、答えに怯えるように私の瞳をのぞき込む倫也に、こくんと頷いてみせると、少しホッとしたようにそおっと足に触れて、ごめんね。とぽつりと呟いた。

そのごめんはなんのごめん?
心配かけてごめん?
もう一緒にいられなくてごめん?
どちらにしても倫也は何も悪くない。

深呼吸して、感情が落ち着くのを待ってからゆっくりと口を開く。

「倫也が、決めていいんだよ。

ここにいるのか、別のところに行くのか」

倫也が息をのむ音が聞こえた。

「僕はここにいたいよ…?」
「私に悪いとか、気を遣わなくていいの」
「なんでそんなこと言うの、」
「あのこでしょ?駅でよく見る。」
「……」
「付き合ってるの?」
「…ちがう」
「じゃあ好きなんだ?」
「ちがうって」
「でも、あの子は倫也のこと、」
「向こうだって俺を好きなわけじゃない。そういうんじゃないんだって」

話せば話すほど倫也は苛立ち始めて、口調が荒くなっていく。

付き合ってないと聞いて、どこかほっとしている私がいる。反面、じゃあなんでキスしたの?という疑問が湧いてきて

私が知っている倫也と目の前の倫也が、少しずつ、ずれていく。

「A、駅前でいちゃいちゃしてた…」
「は?してない!」
「してたじゃん。あの垂れ目の!」
「……。」
「そう見えたんだ…」

ムスッとして言ってる倫也も十分垂れてるけど、今はそんなこと言える雰囲気じゃない。

「だから、おれ…」


何を言いかけたのか、倫也はその先の言葉を飲み込んで

頭をガシガシと掻き乱すと、突然、あ゛ーっもおっ!と叫んだ。

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作成日時:2019年5月30日 19時

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