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コンコン
「A…あけていい?」
私の背中、ドアの向こうから聞こえる倫也の声。
「…やだ」
「…じゃあ、Aがいいよ、って言うまでここで待ってる」
何も答えずにいると、ドア越しに倫也の気配。見えなくてもわかる、すぐ後ろから「まってる」って、骨を伝うように切な気な声が私の中に響いた。
今顔を合わせれば、感情に任せてきっと嫌なこと言ってしまう。
理不尽に倫也を責めてこれ以上拗らせたくない。
さっきドアが閉まる直前に見えた倫也の悲しそうな顔が頭に浮かぶ。
さっき擦りむいた膝はとっくに血は止まってたけど、少しずつ私の中に広がっていく罪悪感と共にずきずきとまた痛み始めた。
自己嫌悪が私の中を埋め尽くしていく。
ぎゅっと膝を抱えると、小さく蹲って目を閉じた。
どのくらい経ったのか、隣の部屋からは物音ひとつ聞こえない。
しばらくの間、リビングから時々聞こえていた、ごそごそと何かしている音がいつの間にかしなくなっていた。
倫也、どうしたんだろ…。
気になるけど、まだ開ける勇気が出なくて少しの間ひとりそわそわ耳を澄ましたりしていたけど、覚悟を決めて、そーっとドアを開けた。
音を立てないように薄く開けたドア。
真っ暗な部屋にいる私の顔に光が射し込む。
明るさに目を細めながらリビングを覗くと、すぐ目の前に毛布に包まり壁にもたれて寝息をたてる倫也がいて、思わず声を出しそうになった。
倫也の周りには、私が机の上に置いてたお土産たちが広げられていて、お菓子に服、雑貨にゲーム。その全部が開けられて、まるでクリスマスの朝みたいに倫也を囲んでる。
部屋からこっそり這い出て寝顔を眺める。ふわふわの髪を指で梳かすと、ぴくりとまつげが震えるけれど規則正しい寝息は、すーすーと乱れることはない。
まるで子供みたいに眠る倫也を見てると、さっきまでの心のトゲトゲがぽろぽろと落ちていく。
イライラとかザワザワとか、余計なものが引いていくと、私の中に残ったのは
ただ、“愛おしい”という感情だけだった。
「独占欲…なのかな」
私が抱いてる感情はこれが一番近いかもしれない。
どんなことがあろうと倫也は私と一緒にいるんだと、どこかで思ってた。
だけど現実は違う。倫也は私の所有物じゃない。ひとりの人間で、男性だ。これから先、他の女の子と一緒にいる倫也を見なくちゃいけないかもしれない。そう思うとぎゅーっと胸が握りつぶされるように痛くて、視界が歪みだした。
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作成日時:2019年5月30日 19時