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youth 30 ページ30

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「田中先輩のせいなんかじゃないですよ」


樹「大丈夫なの?Aちゃんは」


「...大丈夫じゃないです」




どうして私は、田中先輩の前だと強がらないでいられるんだろう。

慎太郎の前ではいつも意地を張って、強がってしまうのに。



弱音を吐いた途端、田中先輩の香りにふわっと包まれる。




樹「ごめんね、抑えられなかった」


「どうすれば、っ...慎太郎はわかってくれるの...」


樹「Aちゃんの頑張り、俺には伝わってるから」




私は最低な女だ。

私のことを好きだと言ってくれている人の腕の中で、自分の好きな男の話をしているんだから。


でもそんな弱音を吐く私を、田中先輩は責めることもなく励ましの言葉をかける。




「田中先輩、なんでそんなに優しくしてくれるんですか...」


樹「好きだから。それ以外に何もないよ」




分かりきっていた答えを、自分の安堵のためにわざと求めた。

田中先輩はそれを分かっていながらも、きちんと言葉にして伝えてくれる。




「グラウンドの人たちが見てます、」


樹「見せておけばいいんだよ」


「...なら見せておきます」




グラウンドで部活をしている陸上部も、サッカー部も、私と田中先輩をチラチラ見ている。

それにも関わらず、田中先輩は私を抱きしめる力を強めた。




「...ねえ、田中先輩」


樹「今度はどうした?」


「私と、付き合ってください」


樹「...え?」






何かを失えば、人は何かを求めたくなるものだ。













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作者名:姫野 | 作成日時:2022年9月3日 22時

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