youth 30 ページ30
.
「田中先輩のせいなんかじゃないですよ」
樹「大丈夫なの?Aちゃんは」
「...大丈夫じゃないです」
どうして私は、田中先輩の前だと強がらないでいられるんだろう。
慎太郎の前ではいつも意地を張って、強がってしまうのに。
弱音を吐いた途端、田中先輩の香りにふわっと包まれる。
樹「ごめんね、抑えられなかった」
「どうすれば、っ...慎太郎はわかってくれるの...」
樹「Aちゃんの頑張り、俺には伝わってるから」
私は最低な女だ。
私のことを好きだと言ってくれている人の腕の中で、自分の好きな男の話をしているんだから。
でもそんな弱音を吐く私を、田中先輩は責めることもなく励ましの言葉をかける。
「田中先輩、なんでそんなに優しくしてくれるんですか...」
樹「好きだから。それ以外に何もないよ」
分かりきっていた答えを、自分の安堵のためにわざと求めた。
田中先輩はそれを分かっていながらも、きちんと言葉にして伝えてくれる。
「グラウンドの人たちが見てます、」
樹「見せておけばいいんだよ」
「...なら見せておきます」
グラウンドで部活をしている陸上部も、サッカー部も、私と田中先輩をチラチラ見ている。
それにも関わらず、田中先輩は私を抱きしめる力を強めた。
「...ねえ、田中先輩」
樹「今度はどうした?」
「私と、付き合ってください」
樹「...え?」
何かを失えば、人は何かを求めたくなるものだ。
.
782人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:姫野 | 作成日時:2022年9月3日 22時