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蓋の隙間 / 魈 ページ20





 "契約"とは、そんなにも重要なことなのだろうか。それとも、これは彼自身の願いなのだろうか。

 時々、魈は傷だらけになって現れることがある。大抵の場合、その状態で私に出会うとすぐに逃げられてしまう。顔をしっかり見る間もなく、しかし彼はしっかり焦って逃げている。そう、何度も言うが逃げているのだ。


 ただし、今回は捕獲に成功した。


「お前には関係のないことだ。もう遅い、寝ろ」

「魈が譲るまで寝ません。はいこれ契約ね」


 そっぽを向いて全く顔を見せてくれない魈。まるで反抗期の子供だが、声色はそれほど悪くない。何を思っているのか知らないけど、ただ顔を見せたくないだけだろう。


「我が許可しない。故にそれは契約とは呼ばない」

「わかったわかった、どっちでもいいから。腕、出してよ」

「…今起きているのはお前くらいだ」

「魈も起きてんじゃん」


 話をそらしてくるので、なぜ怪我を見せてくれないのだろう、唾つけときゃ治るとでも思っているのだろうか、などと考えてはため息をつく。

 魈はずっと黙っているが、腕に限らず体の至るところをさすっているのを見ると、苦しんだばかりなのだろうかとも思えた。


「…お前は気にしなくていい。我のことなど気にかけるくらいなら、もっと自分に目を向けることだ」

「いつも自分のことちゃんと労ってるよ、魈がそう言うから」

「ならば、もう寝ろ」

「魈」

 
 寝ろ寝ろうるさい訳だが、俯く背中はあまりにも小さく見えて。行くな、とでも言うようで。実際私がここで折れても、きっと魈はまた一人で苦しむことを選んでしまう。


「お前は、本来ならば我に近づくべきではない。…我は業障と共にある。それはいずれ、お前を傷つける」


 驚くほど寂しい声で、呟くように言った。途端に私は何も言う気力がなくなって、包帯を持った手もぶらりと膝に落とした。魈を怒らせるのが恐いわけでも、言われたことがごもっともだから何も言い返せないとか、やっとその恐ろしさに気がつきましたとか、そんな訳じゃない。

 …ただ、少し呆れただけで。

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名無し3680号(プロフ) - まくらもとさん» 読ませていただきました!最高でした。素晴らしいお話ありがとうございます! (2023年3月6日 22時) (レス) @page34 id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» 遅くなってしまってすみません。書き上げましたのでレス失礼します。書いてて「これでいいのか?」と悩んだんですが、まくらもとらしさを重視してそのまま投稿しました。ちょっと長いんですがよろしくお願いします〜 (2023年3月6日 21時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» リクエストありがとうございます!!3.5の風花祭での登場もあると思いますし、ブリュー祭を振り返って想像を膨らませながら書いてみますのでお待ち下さいな。いつもありがとうございます! (2023年2月27日 16時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
名無し3680号(プロフ) - リクエスト宜しいでしょうか?ミカ君で夢主と事故キスする話しなど書けますでしょうか?いつも楽しく読ませていただいております! (2023年2月26日 22時) (レス) id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - ルーナさん» 好きじゃなかったら絶対「いつか旅に出られるといいね」としか言わなかったと思います。衝動で動いちゃう空ほんと… (2022年9月27日 22時) (レス) id: cfa18e3d30 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:まくらもと | 作成日時:2022年9月27日 1時

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