検索窓
今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:5,369 hit

―2― ページ8

·
 
 
 
·
 
 
 
·
 
 
 
(いない、いない、いない)
 
 
 
トントン、時にはドタドタ。廊下で足音が響く。

足音の主、リンは一度客間に戻っていた。苦し気な少年にもう一度会うために。

けれど、そこに彼はいなかった。あるのは対局半ばで放り出した将棋盤のみ。

てっきり、まだいると思っていたのに。
 
 
 
踵を返して廊下を歩く。居間? いや、違った。

歳下の小学生が戯れているだけだった。
 
 
 
さっきよりも足を速めて埃を舞わせる。じゃあ物置は? 当然いない。

好好爺の趣味であろう兜が静かに見返してくるだけだった。
 
 
 
足音が大きくなる。今度こそ、西野さんの部屋? 誰もいなかった。

そこまで近くはない居間ではしゃぐ小学生たちの声が聞こえた。
 
 
 
(どこ、どこ、どこ)
 
 
 
どうしようもなく気分が急いた。

彼に会わなければ、気がすまなかった。
 
 
 
 
 
あの瞳をいつかどこかで。

嗚呼、あれは。
 
 
 
 
 
(母さん(・・・)とおんなじ。苦しくってどうしようもないときの目)
 
 
 
 
 
彼女とて、感づいてはいる。

彼に会いたくて仕方ないのは、ただのエゴイズムだ。

自分勝手、自分本意、身勝手。

いくらそんな言葉を重ねようと足りない、それほどのエゴ。
 
 
 
塵ほども関係のない彼と母を重ねて。

母を救えなかった自分を救いたいのだ。

罪悪感に溺れる自分を救いたいのだ。
 
 
 
 
 
動かしていた足がスッと止まる。

縁側に人影ふたつ。

ああ見つけた、と歩み寄る。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
······彼女は知らない。気づかない。

自分の瞳も、彼や彼女の母とさして変わらないことに。

―3―→←虚勢、の裏の苦悩  ―1―



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (8 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
11人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:花藺 | 作成日時:2018年5月25日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。