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(いない、いない、いない)
トントン、時にはドタドタ。廊下で足音が響く。
足音の主、リンは一度客間に戻っていた。苦し気な少年にもう一度会うために。
けれど、そこに彼はいなかった。あるのは対局半ばで放り出した将棋盤のみ。
てっきり、まだいると思っていたのに。
踵を返して廊下を歩く。居間? いや、違った。
歳下の小学生が戯れているだけだった。
さっきよりも足を速めて埃を舞わせる。じゃあ物置は? 当然いない。
好好爺の趣味であろう兜が静かに見返してくるだけだった。
足音が大きくなる。今度こそ、西野さんの部屋? 誰もいなかった。
そこまで近くはない居間ではしゃぐ小学生たちの声が聞こえた。
(どこ、どこ、どこ)
どうしようもなく気分が急いた。
彼に会わなければ、気がすまなかった。
あの瞳をいつかどこかで。
嗚呼、あれは。
(
彼女とて、感づいてはいる。
彼に会いたくて仕方ないのは、ただのエゴイズムだ。
自分勝手、自分本意、身勝手。
いくらそんな言葉を重ねようと足りない、それほどのエゴ。
塵ほども関係のない彼と母を重ねて。
母を救えなかった自分を救いたいのだ。
罪悪感に溺れる自分を救いたいのだ。
動かしていた足がスッと止まる。
縁側に人影ふたつ。
ああ見つけた、と歩み寄る。
······彼女は知らない。気づかない。
自分の瞳も、彼や彼女の母とさして変わらないことに。
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作者名:花藺 | 作成日時:2018年5月25日 20時