検索窓
今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:5,366 hit

―3― ページ5

·
 
 
·
 
 
·
 
 
 
「んー······カイコクくんなかなかやるねー」
 
 
 
薄く微笑んで口許に手を添える彼女。

対局を始めてどれだけ経ったか。

この対局で決めたルールは持ち時間30分、カイコクが先手で彼女が後手。というもの。

なかなかやる、と言われても、先手は一応有利なはずであるし、

それにカイコク自身将棋も祖父にそれなりに鍛えられている。

そう考えると、彼女こそなかなかやると言わざるを得なかった。
 
 
 
微笑んだままパチッ、と駒を進めた彼女にカイコクは一瞬顔をしかめる。

今は拮抗している盤上の戦争だったが、きっと一度のミスでその状況も容易く傾く。

遊びと言えど、負ける気などなかった。もちろん、二人とも。
 
 
 
「あんたも、やるな」
「ふふふ。ありがと。まあ褒められても負ける気ないけど」
 
 
 
負ける気など、ない。

負けるわけには。
 
 
 
『お前は鬼ヶ崎の跡継ぎだ。鬼ヶ崎の名に恥じるような真似はするな』
 
 
 
 
 
 
······こんなときまで、そんな言葉に縛りつけれていることに、

舌打ちを溢した。ギリギリと歯を軋ませた。掌に爪が食い込んだ。
 
 
 
 
 
 
「······カイコクくん?」
 
 
 
“普通”に紛れ込もうとしても、

“普通”を偽ろうとしても、

名の呪いはカイコクを縛る。絡みつく。

どうしようもなく、ムカムカとした。
 
 
 
「姉貴!」
 
 
 
突如横合いから聞こえた声に、はっとする。

そうしてやっと、彼女がこちらの頬に手を伸ばそうとしていたことに気づいた。

心配そうな瞳が揺れて右を向く。
 
 
 
「カズキ······。どうしたの」
 
 
 
同じく顔を向けると、カイコクと同じほどの年頃の少年がそこにいた。

フイッとそっぽを向く少年。
 
 
 
「西野さん、呼んでる」
「······そう」
 
 
 
そっと頷いて、伸ばしかけていた手を戻して立ち上がる。

少年が去り際、こちらを睨み付けた気がした。
 
 
 
「ごめんなさい、私行くね。······無理、しちゃダメだよ」
「っ待て」
 
 
 
出ていく彼女を呼び止める。

振り返った彼女に問いかけた。
 
 
 
「······名前は」
「······新田リン」
 
 
 
柄にもなく、まだこの対局を続けていたかったと、そう思った。

虚言、に潜む苛立ち ―0―→←―2―



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (8 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
11人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:花藺 | 作成日時:2018年5月25日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。