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逃亡、そして出逢い ―1― ページ1

彼の生活は、いつもと変わらなかった。

······いや。いつもと変わらないはずだった(・・・・・・・・・・・・・・)
 
 
 
 
 
一応の義務教育である学校から帰るとすぐに家に缶詰め。

そんな日常が、由緒ある旧家の一人息子である彼にとっての辛いところだ。
 
 
 
 
現在11歳。

彼のように特殊な家でなければやんちゃ盛りとして家族を困らせていたに違いない。

では特殊な事情を持つ彼の場合は?

もちろん、彼の場合は反抗期が真っ盛りである。
 
 
 
 
今日も今日とて、彼は祖父へのささやかな抵抗のためにそっと屋敷を脱け出す。

逃亡先はいつだって同じ。
 
 
 
 
部屋を脱け出す。

庭に出る。

塀をよじ登る。

このスリーステップで簡単に逃亡先へ辿り着く。
 
 
 
 
逃亡先。それは屋敷の裏手に住む好好爺の家だ。

爺の名は西野と言って、気のいい彼の家は近所のガキたちの格好の溜まり場。

そんな普通の日常を享受するガキたちに紛れ込むように、彼は逃亡する。

爺とて、彼が坊っちゃんであることをわかって受け入れる。
 
 
 
 
なんだかんだ、都合のいい逃亡先だった。
 
 
 
 
今日も、そのスリーステップを経て逃避行を開始する。

塀を飛び降りると、いつも通りタン、と小気味のいい音がする。

家の中からは、爺が将棋を教えているのだろう。

パチッ、パチッ、と将棋を指す音が小さく聞こえていた。
 
 
 
 
家の方へ歩みを進めようとして同時に、子供の笑い声が大きく響いた。

彼はピタリ、足を止める。そして、まだそこまで大きくないその手を拳に変えた。

なにも考えず能天気に笑える。

いつだって、そんな彼らが羨ましく、妬ましく感じて仕方がなかった。

だから。
 
 
 
 
「どうしたの?」
 
 
 
 
きっと彼は、

救いを求めたのだ。
 
 
 
 
顔を上げた先にいた少女に。
 
 
 
 
初めて会った見知らぬ彼女に。
 
 
 
 
自分と似通った雰囲気を纏う、その彼女に。
 
 
 
 

―2―→



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作者名:花藺 | 作成日時:2018年5月25日 20時

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