【コンパス】おうじょさまときし【短編集】 (ページ5)

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「きゃっ…」
「危ない…っ！」

雪に足が持っていかれたのだろう。
体勢を崩してしまった王女様を咄嗟に抱きしめた。

「ご、ごめんなさい…」
「お怪我はありませんか？」

「はい、大丈夫です。…あ」

自然と抱きしめるような形になってしまい、王女様の顔が近い。
綺麗な顔が目の前にある。

思わず、見とれてキスしてしまいそうだ。

「あ、あの…アダムさん…近いです」

頬を赤らめ、目をそらす王女様を見ると、ドキドキと胸が高鳴った。

「も、申し訳ありません…、つい…」
「いえ、いいんです…」

我に返り、王女様から離れると、先ほどまで感じていた王女様の体温がなくなり、寂しく感じる。
むず痒いものを感じ、少し気まずい空気が流れた。

もう一度抱きしめたい。

「アダムさん」
「なんでしょう」

「見てください、この街の風景」
「これは…とても綺麗ですね」

あまり街の風景を見ることはなかった。
そこには確かに綺麗な風景が広がっていた。

雪に包まれた、真っ白な街並み。

「私はこの街並みが好きなんです」
「確かに、とても美しい風景ですね」

「いつか、私が女王の座を譲り受けたとき、この街を守れるようになれたら」
「A様ならきっとなれます」

「まず、母には王女としての品格が、とか言われちゃいますね」
「認めてもらえるように頑張りましょう」

「難しい話です」
「もし、A様が女王になっても、私をずっとあなたの側でお護りさせてください」

本当は、守備騎士としてではなく、もっと特別な存在としてがいいのだが。
もう少し、ゆっくり距離を縮めていこう。

「もちろんです、お願いしますね」

微笑んだ王女様の横に並び、王女様と手を繋いだ。
王宮の誰かに見られているかもしれない。

そんなのは関係なかった。

ただこの風景を楽しみ、王女様との時間を楽しんだ。