ヒューマンバグ大学短編集４！ (ページ11)

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続きですページ11

振り向けば、Aからは貼り付けたような笑顔は消えており、その代わりに物憂げな顔で久我を見上げていた。

物憂げな女性を前にして不謹慎と分かっていながらも、いつもと違うAの顔を見た久我の心臓は少し跳ねた。

久我(そんな顔もするんだな…)

亡くなりそうな人や緊迫した場面では真剣そのもので、取り繕ってこそいないものの、普段回診に来たときには不安を取り除く目的もあるだろうが、実は入院中に一度

男性患者「女医！？女医なんかに俺が治せるとは思えん！男の医者を出せ！」

と彼女を前に怒鳴り散らす男性患者を見たことがある。だが、久我は何度か治療を受けており、彼女の腕が立つことは分かっていた。

しかし、女性も居るとはいえ根本的には男社会。
悔しいだろうに、怒れるだろうに…それでも彼女は穏やかな表情をほんの少しも崩すことはなかった。

久我はそんな彼女を(凄い)と思うと同時に、少し(怖い…)と思っていた節があった。

しかし久我と接している時の彼女の顔は、医師としてというよりは、慈愛に満ちた美しい女性の表情に見えた。
何度が接するうちに彼女の中にある感情が少し分かるようになった気がしていた。

久我(なんて、俺の都合のいい勘違いかもしれねえけどな…)

「…久我さん。」

久我「っ！？は、はい？」

「…しっ…いえ…頑張ってくださいね。」

死なないで、という言葉を飲み込み、慈愛や不安が複雑に入り混じった顔でAは笑う。

(前いらした極道さんが仰ったんですよ…例え死ぬことになってもメンツを守るのが極道だって…)

久我「…色々ありがとうございます。あの…」

「さぁ、そろそろ昼食を食べに看護師さん達が休憩で近くを通ります。見つかったら大変ですよ。」

意を決したように何か話そうとした久我の言葉を遮り、その背中を優しく触れる程度に押した。

久我「どうもッス、センセイ」

立ち去っていく背中に

「お気をつけて…」

と声を掛けて、彼の黒い背中が小さくなった頃、Aは白衣を翻し病院内へと戻っていった。
久我が不意に振り返って、Aの白い背中を見ていた事も知らずに。

〜後日〜

仕事を終えたAが帰ろうと病院を出たときだった。

「…あ…！」

久我「あ、よかった、今終わりですか？」

「…診察ご希望でした？」

久我「そんなんじゃないッス。回復しましたよ。おかげさまで」

「それはなによりです」