口に出せない言葉がある ページ32
近づいてくる足音。
一体何事だ、と思って横向きのまま目を開けると、するり、と隣に何かが入り込んできた。
あ、Aだ。
長い髪が揺れる度に、甘いシャンプーの匂いが鼻腔をくすぐる。
やっぱりソファの寝心地が悪くて起きちゃったんだな、と思って話しかけようとしたが、案外眠気は僕を襲ってくれていたようで、声を出す気力さえもない。
目だけ薄っすらと開いていると、月明かりに照らされたAが、上半身だけを起こして、僕を見つめているのが見えた。
美しい。
恐ろしいと思うほど、美しい。
いつでも赤く輝く唇が、すこし隙間を開けて、無防備にこちらを見る。
儚い、今にも泡のように消えてしまいそうな、美しさだ。
根強くこの世に存在しようとしない、そんな人でしか出し得ない雰囲気が、溢れ出ている。
艶やかな唇が、音もなく言葉を形作った。
『オッパ....ルハンオッパ』
なんで....そんな目で僕を見るの?
崩れる
今までのAがガラガラと、頭から崩れ落ちる
君はもう少女なんかではない
一人の女性なんだね。
しなるように僕の隣に横たわったAは、ごそごそと布団の中をまさぐった。
僕の脇腹に触れ、肩に触れ、そこから腕、手へとするするAの指が降りてくる。
昼間に見た、白くて細い指を思い出すと、全身が粟立つ。
とっくに瞼を下ろしていた僕の全神経はその一点に集中してしまった。
きゅっと、手が握られる。
確かめるように角度を変えて、Aは僕の手を両手で包み、大事そうに頬に当てた。
君の中で僕が男になったということは、君はもう女なんだ。
でも、まだ娘のような、妹のような存在で居て欲しい。
大人にならないで。
君が遠くに行ってしまう気がする。
僕から離れて、どんどん魅力的になって、僕の知らない君になってしまう。
成長しないで。
僕を置いていかないで...
微かにAの息が手にかかるのを感じながら、僕は夢と現の間を彷徨っていた。
繋がれた手から、確かに移ったのと同じAの体温が、シーツに融けて、二人で入る布団をより心休まるものにしてくれる。
昨日は早く成長して、と思って寝たのに、今日は成長しないでと願って寝るなんて、僕は我が儘な大人だ。
大人になるのが速過ぎだよ。2歳の時に二人で大きな栗の木の下でを歌ったのはつい最近の話なのにね。
夢に飛びそうな意識の中、僕はこの繋いだ手がずっと繋がれたままだったらいいのに、と思った。
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かのか(プロフ) - おもしろい!スゴく良かった!2章読んできまーす! (2015年7月6日 8時) (レス) id: 171b30f749 (このIDを非表示/違反報告)
ようこ(プロフ) - べっちゃんさん» べっちゃんさん、コメントありがとうございます!短編の時から、とは彼に恋しても無駄時代からですね(;゜0゜)大変です!そんな前から読んでくださっていたなんて、感謝感激雨あられです(≧∇≦)ありがとうございます!! (2014年7月18日 20時) (レス) id: 35ef913cfb (このIDを非表示/違反報告)
ようこ(プロフ) - ヒロンさん» こんばんは!お返事遅くなってしまってごめんなさい(;_;)2章の方、ゆっくりですが更新しておりますので、よかったら訪れて下さいね( *`ω´) (2014年7月18日 20時) (レス) id: 35ef913cfb (このIDを非表示/違反報告)
べっちゃん(プロフ) - 第一章 完結おめでとうございます!短編のときから読ませて貰ってました!これからもファイティン! (2014年7月13日 12時) (レス) id: 1623f1ded7 (このIDを非表示/違反報告)
ヒロン(プロフ) - ありがとうございます☆すっごく楽しみにしていますp(^-^)q更新頑張って下さいね♪ (2014年7月13日 9時) (レス) id: 0719d3023f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ようこ | 作成日時:2014年5月1日 17時